白雪姫の王子様

俺はしばらくの間、泣き続けていた。

そんな俺を、雪のお母さんは、
ずっと見守ってくれていた。

俺が落ち着くと、ソファに座らせ、
ティッシュと、保冷剤を持ってきてくれた。

ティッシュで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を、
しっかりと拭く。

床も汚してしまったので、急いで綺麗にする。

そして、熱く、重たくなった瞼に、保冷剤を当てる。

「あの、これ」

俺は、片付けをしてくれている、雪のお母さんに、
USBを差し出した。

「これは?」

不思議そうに見ている。

「雪とイルミネーションを見に行った時の写真です」

そう言って、手渡す。

雪のお母さん“一緒に見ましょ“と言って、
テレビにUSBを接続した。

すると、画面に雪の眩しい笑顔が映し出された。

少しずつ、進めていく。

雪のお母さんは、瞳に涙を溜めながら、
画面の中の雪を見つめている。

でも、その顔は悲しんでいる顔ではなかった。

優しく、微笑んでいる。

写真を届けてよかった。

すると、突然、動画が再生された。

「……え?」

そこに映っていたのは、あの日、
最後に会うことができなかった雪。

赤いワンピース。

綺麗に整えられた髪。

楽しそうに笑う姿。

まるで、絵本から飛び出してきた、
白雪姫みたいだった。

胸が締め付けられる。

すると、雪がカメラへ向かって、
何かを話しかけていた。

「音……」

聞こえない。

俺はリモコンを手に取り、音量を上げた。

次の瞬間。

『雪ちゃん可愛すぎるって!!』

『動画ブレてる!バカ!』

翔と莉子の騒ぐ声が、爆音で流れた。

「……あいつら」

思わず呆れてしまう。

雪のお母さんは、驚きながらも笑っていた。

結局、音量を下げる。

そして、もう一度巻き戻した。

雪の口が動く。


『蓮くん、愛してる』

そう見えた。

……気のせいかもしれない。

でも、それでよかった。

その言葉を、俺だけのものにしたかった。

こうして俺は、雪の“死”から、
逃げ続けなくて済んだ。

受け入れられたわけじゃない。

今でも苦しい。

会いたい。

触れたい。

でも、向き合うことはできた。

帰り際。

雪のお母さんが、優しく笑った。

「また、いつでも遊びに来てね」

「あ……はい」

少しだけ考えて、続ける。

「今度は三人で来ます」

雪のお母さんは、少し驚いたあと、
嬉しそうに頷いた。

「待ってるわ」

外へ出る。

冷たい風が頬を撫でた。

ふと、空を見上げる。

その空は、どこまでも、青かった。