白雪姫の王子様

これが最後……

俺はゆっくりと、手紙を手に取り、
視線を落とした。

封筒には

〈蓮くんへ〉

と書かれていた。

中を見るのが怖い。

それでも勇気を出して、俺は手紙を読み始めた。


『蓮くんへ

これを読んでるってことは、
私はもういないってことだよね。

でもね、
私は今、すごく幸せな気持ちでいます。

だって、私の人生には、
蓮くんが来てくれたから。

最初は怖かったよ。

蓮くん、顔怖いし、
口悪いし、
すぐ怒るし。

でも、本当は、
誰よりも優しい人だって知った。

だから、
どんどん好きになっちゃった。

夏に一緒に病室で過ごした時間も、
一緒に青空を見た時間も、
みんなと笑い合った時間も、
ショッピングセンターも、
イルミネーションも、
全部宝物です。

私ね、
本当はもっと生きたかった。

もっとみんなと笑いたかった。

もっと蓮くんと、
普通の恋人みたいなことしたかった。

春も、
夏も、
もっと見たかった。

でもね。

最後に、
“好きな人に愛される”
っていう、
世界で一番幸せな夢を叶えてもらえたから、
私は幸せです。

だから、自分を責めないで。

お願いだから、
「もっとこうしてれば」って思わないで。

私は、蓮くんと出会えて、本当に幸せだったから。

あとね。

赤いマフラー、
ずっと大事にしてくれたら嬉しいな。

だって、お揃いだもん。

それから、
いつかまた、
誰かを好きになってください。

ちゃんと幸せになってね。

でも、
少しくらいは、私のこと思い出してね。

最後に。

私の王子様になってくれて、ありがとう。

蓮くんは完璧な王子様だよ。

ずっと愛してるよ。

雪より』

最後まで読み終える前に、

涙が溢れた。

もう限界だった。

大切な手紙に、涙が落ちないよう、必死に拭う。

でも、次から次へと溢れてくる。

文字が滲む。

それでも、止まれなかった。

全部、雪の言葉だから。

読み終える頃には、俺は手紙を抱きしめたまま、
床へ崩れ落ちていた。

声が漏れる。

止まらない。

苦しい。

そんな、自分を責めないなんて無理だろ。

肝心な時に、側にいてやれなかった。

最後の瞬間、雪はどんな気持ちだった。

怖くなかったのか。

苦しくなかったのか。

もっと、俺ができることはあったんじゃないのか。

雪以外を愛することなんて、できるわけない。

俺は、王子なんかじゃない。

「雪っ……」

声も溢れて、止まらない。

「俺は……っ、俺は……!」

呼吸もうまくできない。

涙も、

感情も、

全部溢れてくる。

その時だった。

「蓮くん!」

雪のお母さんが、慌てて駆け寄ってきた。

そして、子どもをあやすみたいに、
優しく背中を撫でてくれる。

「大丈夫。雪のことを、こんなに想ってくれてありがとう」

優しい声だった。

その言葉が、余計に涙を溢れさせる。

しばらくの間、俺は泣き続けた。

雪がいなくなった世界で、初めて、ちゃんと泣いた。