白雪姫の王子様

エレベーターを降りる。

病室の前には、莉子と翔、そして雪の両親がいた。

全員、下を向いている。


――まさか。


足が止まりそうになる。

でも、止まれなかった。

ゆっくり近づく。

息が苦しい。

「……蓮」

莉子が顔を上げる。

その顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。

翔も、ゆっくり顔を上げる。

涙を拭うと、震える声で言った。


「白雪姫がお待ちです……」


雪の両親は、抱き合いながら肩を震わせている。

俺は、病室へ入った。

綺麗に飾り付けられた病室。

クリスマスの飾り。

ヤドリギ。

途中まで作られた、楽しい時間の跡。

兄貴が、ベッドのそばに立っていた。

悲しそうな目で、俺を見る。


「雪ちゃんは、最後まで――」


「ああ……わかってる」

兄貴は静かに頷くと、俺の肩を軽く叩き、
病室を出て行った。

扉が閉まる。

静かだった。

俺は、ゆっくり雪を見る。

そこには、眠るように横たわる雪がいた。


綺麗だ……


あまりにも綺麗で、今にも目を覚ましそうで。

俺は、雪のそばへ歩み寄る。

そっと、頬へ触れた。

冷たい。

でも、まだ雪だった。

視線が、雪の唇へ落ちる。

俺は、ポケットから小さな箱を取り出した。

ショッピングモールで買った、赤い口紅。


雪が見つめていた色。

ゆっくり蓋を開ける。

そして、丁寧に、雪の唇へ色を乗せた。


鮮やかな赤。

やっぱり、雪にはこの色がよく似合う。

「お待たせしてしまい、申し訳ございません」

震える声。

「白雪姫」

白雪姫は、王子様のキスで目を覚ます。

だから。

俺がキスをすれば、
雪は目を覚ますかもしれない。

……なのに。

なんで、こんなに苦しいんだ。


なんで、涙が止まらない。


「ゆ、き……」

俺は涙を拭う。

そして、雪の頬へ手を添えた。

そっと、赤い唇へ唇を重ねる。

静かなキスだった。

ゆっくり離れる。


でも。


雪は、

目を覚まさなかった。

「……なにが王子だよ」

震える声が漏れる。

側にいたかった。

守りたかった。

寂しい思いなんて、させたくなかった。

なのに。

「くそっ……!」

涙が溢れる。

止められない。

感情が、全部崩れていく。

その夜。

雪が再び目を覚ますことは、

なかった。