白雪姫の王子様

今は、何時なんだろう。

ゆっくり目を開ける。

ぼやけた視界。

でも、聞き慣れた声がした。

「雪!」

「雪ちゃん!」

「雪……!」

みんなが、私の周りにいる。

でも、誰も笑っていなかった。

今日は、クリスマスパーティーの日なのに。

みんな、泣きそうな顔をしている。

……そっか。

でも。

今日だけはダメ。

今日、死んじゃダメ。

こんなにみんなで準備したんだもん。

莉子が、綺麗にしてくれたメイク。

髪型。

ワンピース。

蓮くんが作ってくれたケーキ。

翔くんが、たくさん残してくれた今日の記録。

お父さんとお母さんも来てくれた。

先生も、必死に私を助けようとしてくれてる。

だから、悲しい顔しないで。

「ゆきぃ……」

莉子が、涙を流しながら私の手を握る。

「ウチが無理させたからぁ……」

私は、震える指で、莉子の涙を拭った。

「雪……?」

「今日は……」

息が苦しい。

でも、ちゃんと伝えなきゃ。

「泣かない……日、でしょ?」

「だけどっ……!」

「わら、って……」

私は、必死に笑顔を作った。

「みんなも……わらって……」

そう言うと、みんな、涙を堪えながら、
必死に笑顔を作ってくれた。

その顔を見て、安心する。

……わかってしまった。

私は、もうすぐ死ぬ。

蓮くんには、もう会えないかもしれない。

愛する人に、生きたまま、会えないかもしれない。

でも――

「せん、せ……」

「どうした?」

「これ……はず、して……」

先生の視線が、酸素マスクへ向く。

「ダメだ!外したら――」

「わか、ってる……」

私は、先生の言葉を遮った。

……決めたんだ。

愛する人に、生きたまま会うことを、諦めるって。

だって、白雪姫なら。

王子様のキスで、目覚めないといけないから。

だから、最後まで、綺麗なお姫様でいたかった。

私は、先生の白衣を強く握る。

先生は、お父さんとお母さんを見た。

二人は泣きながら、静かに頷く。

……ありがとう。

最後のわがまま、聞いてくれて。

ゆっくり、酸素マスクが外される。

「っ……」

一気に呼吸が苦しくなる。

みんなが、必死に私の名前を呼ぶ。

みんな、私の手を握ってくれてる。

温かい。

「みんな……だいすき……」

私は、今までで一番、幸せな笑顔を見せた。

この笑顔は、嘘じゃない。

だって、私は幸せだった。

憧れだった、白雪姫になれたから。

意識が、遠くなっていく。

みんなが何か言ってる。

でも、もう聞こえない。

不思議。

苦しくない。

体が、ふわふわする。


蓮くん――


愛してるよ。