白雪姫の王子様

13:30。

今日は、クリスマスパーティーの日だ。

家のドアを開ける。

「ただいま」

「おかえり」

普通の会話。

それなのに、なぜか少し懐かしく感じた。

「もう準備できてるわよ」

母さんが、優しく声をかけてくる。

「ありがとう」

何気ないやり取り。

でも、昔はこうだった気がした。

俺は台所へ向かう。

すると、

「お!おかえり〜」

聞き慣れた声。

「……なんで兄貴がいるんだよ」

兄貴がエプロン姿で立っていた。

「柊真も手伝いたいって」

母さんが少し嬉しそうに言う。

兄貴はうんうん頷きながら、
胸ポケットから一枚の紙を取り出した。

「それは?」

「雪ちゃんからの招待状」

兄貴は得意げに振って見せる。


……腹立つ。

「仕事はどうしたんだよ」

「今日は休み」

兄貴はさらっと答えた。

「雪ちゃんのクリスマス優先だから」

なんだそれ。

でも、少しだけ笑ってしまう。

その後、俺たちは三人でケーキを作り始めた。

「あっ」

卵の殻が、ボウルの中へ落ちる。

「おい蓮」

「卵もまともに割れねえのかよ」

兄貴が呆れた顔をする。

「うるせえ」

思わず睨む。

すると、母さんが笑いながら、俺の手を取った。

「こうやって優しく叩くの。力入れすぎ」

母さんの手は、温かかった。

声も。

笑顔も。

こんなに、優しかったんだ。

……俺は、大切なことを忘れていたのかもしれない。

それとも、思い出せなくなっていただけなのか。

昔はきっと、こうやって笑っていた。

そう思うと、胸が少し痛くなった。

でも今は、失った時間を、
少しずつ取り返していくみたいだった。

三人で作る、小さなクリスマスケーキ。

その甘い匂いが、
静かに家の中へ広がっていった。