白雪姫の王子様


「い、いや、別に……通りかかっただけ」

本当にそれしか言えなかった。

そう言うしかなかった。

「絵、描いてたんだろ」

気まずすぎて、
思ってもないことが勝手に口から出る。

「うん。空、描いてた」

少女はスケッチブックを俺に少しだけ傾ける。

にこっと笑ったその顔が、
思ってたよりずっと“ちゃんと生きてる”顔だった。

病人のくせに、なんでそんな顔ができるんだよ。

「そうか……」

それしか言えなかった。

「あの……あなた、ボランティアの人?」

「……いや、違う」

不意に聞かれたので、思わず、否定してしまった。

「そうなんだ。じゃあ、なんでここに?」

少女は続けて、俺に問いかける。

ボランティアでないなら、
ずっと見てくる変態でしかない。

そう思われるのも面倒なので、

「さあ。勝手に連れてこられただけ。じゃあ」

そう適当に返して、急いでその場を離れる。

「また、通りかかってね」

少女はポツリと呟く。

一瞬、立ち止まりそうになったが、
俺は何も言わず、そのまま歩き出した。

でも、背中越しに聞こえた声が、
どうしてか、ずっと耳から離れなかった。