白雪姫の王子様

みんなが帰った後の病室は、いつも静かだ。

でも今日は、少しだけ違った。

クリスマスの飾り。

莉子が飾ってくれた星。

そして、ベッドの上に吊るされたヤドリギ。

『キス』

昼間、莉子が言っていた言葉を思い出す。

一気に顔が熱くなる。

「もう……」

思わず布団を引き寄せる。

その時だった。

「雪ちゃん、入りますね」

看護師さんが病室へ入ってきた。

「雪ちゃん、大丈夫?」

優しい声。

「ん〜……ちょっと苦しいかも」

そう答える。

「そっか、急いで準備するね」

看護師さんは慣れた手つきで、
酸素マスクを口元へつけてくれた。

少しだけ、呼吸が楽になる。

「雪ちゃん、無理しすぎないでね」

看護師さんは、少し心配そうに言った。

「大丈夫です。ありがとうございます」

そう笑って返す。

でも、看護師さんは、
少しだけ悲しそうな顔をしていた。

そのまま静かに病室を出ていく。

……今日は、はしゃぎすぎたかな。

でも、みんなに心配かけたくなかった。

だから、見せたくなかった。

点滴も。

チューブも。

酸素マスクも。

 “病人の私”を。

私はもう、気づいている。

この心臓が、長くはもたないこと。

明日、ヤドリギの下で、キスしていいのかな。

すぐいなくなる私と……

だって、“永遠の愛”なんて。

蓮くんだけを、残してしまう気がする。

蓮くんの未来を、縛ってしまう気がして。

それが、嫌だった。

胸が苦しい。

呼吸も苦しい。

でも、悪いこと考えちゃダメ。

明日は、楽しみがいっぱいなんだから。

私は、ベッドの横に置いてあった、

猫のぬいぐるみを抱きしめる。

蓮くんが、取ってくれたぬいぐるみ。

今日は、いつもより少し強く抱きしめた。

まるで、大切なものを離さないように。