白雪姫の王子様

パーティー前日。

雪の鼻から、管が外れていた。

その姿を見て、少しだけ安心する。

そして、クリスマスケーキのことを話した。

「蓮くんが作るの!?」

雪が嬉しそうに、ベッドから身を乗り出す。

「いや、正確には母さんが――」

「蓮くんのお母さんが作ってくれるの!?」

俺の言葉を遮る雪。

「蓮のお母さんのお菓子、美味しいもんね〜!」

莉子が懐かしそうに言った。

「そうなのか?」

俺はもう、その味を思い出せなかった。

「蓮のお母さんって完璧よな〜」

翔が勝手に話し始める。

「完璧って?」

雪が首を傾げる。

「まず、めっちゃ綺麗」

「おお〜!」

「スタイルもいい」

「おお〜!」

「しかも元超優秀女医」

「おお〜!!」

「料理もお菓子も美味い!」

「すごい!!」

「つまり完璧な女性なのだ!」

「完璧なのよ!」

最後だけ、莉子と翔の声が揃う。

雪は、目を輝かせながら拍手していた。

……なんなんだこの空間。

他人の母親のことで、
よくここまで盛り上がれるな。

呆れながら見ていると、突然、
雪が立ち上がった。

「私も、蓮くんのお母さんみたいになりたい!」

「危ない!」

思った通り、雪の体がぐらつく。

とっさに抱き留める。

細い。

軽い。

ゆっくりベッドへ座らせる。

「雪は、そのままでいいんだよ」

そう言うと、雪は少し不満そうな顔をした。

「俺は、今の雪が好きだから」

その瞬間、雪と目が合う。


沈黙。


病室の空気が、少しだけ変わる。

すると――

「き〜すしろっ、き〜すしろっ」

小声で囁く、莉子と翔。

現実に引き戻された。

「なんでキスしないんだよ〜」

翔が残念そうに言う。

「ウチ、いいこと思いついた!」

嫌な予感。

莉子は飾り付けの道具箱から、
紐と緑の葉を取り出した。

「雪、ちょっとごめんね〜」

そう言って、ベッドの上へ何かを吊るす。

「なにこの葉っぱ?」

雪が不思議そうに見上げる。

「これはねぇ〜」

莉子が、完全に悪い顔をしている。

「ヤドリギ!」

「ヤドリギ?」

「クリスマスにヤドリギの下でキスしたカップルは――」

「キ、キスっ!?」

雪が真っ赤になる。

莉子はニヤニヤしながら続けた。

「永遠に幸せになれるんだよ〜!」

「わぁ……!」

雪は本気で感動していた。

そして、莉子と手を取り合い、
ベッドの上ではしゃぎ始める。

……ただの言い伝えだろ。

そう思うのに。

なぜか胸が痛かった。

「ロマンチックっすねぇ〜やるしかないっすねぇ〜」

翔がニヤニヤしながら、肘で突いてくる。

腹立つ。

俺は静かに、翔を痛めつけた。

どうやら飾り付けは、明日完成させるらしい。

みんな、明日が待ちきれないんだろう。

いつも以上に騒がしい。

でも――

雪が、いつもより無理にはしゃいでる気がした。

気のせいか?

それとも、
明日を特別な日にしたいのか。

……まさか。

嫌な考えが頭を過る。

その時だった。

「蓮くんもこっち!」

雪に腕を引っ張られる。

その笑顔を見た瞬間、嫌な考えは、
一瞬で消えてしまった。