白雪姫の王子様

ケーキを用意する。

そう言ったものの、現実は甘くなかった。

どこの店も、予約でいっぱい。

クリスマス直前。

当然と言えば当然だった。

結局、何も成果のないまま家へ帰る。

ソファへ倒れ込んだ。

「ケーキか……」

思わず呟く。

すると、後ろから声がした。

「ケーキがどうしたの?」

母さんだった。

俺のことを、“失敗作”だと思ってる人。

いつの間にか、俺はそう決めつけていた。

「柊真から聞いたわ」

その言葉に、勢いよく起き上がる。

「……何をだよ」

思わず、睨みつけてしまう。

母さんは、少し目を逸らした。

「クリスマスパーティーするんでしょ?」

そこまで話してんのかよ。

「だから?」

冷たく返す。

すると母さんは、小さな声で続けた。

「ケーキのことで困ってるんじゃない?」

……兄貴め。

「関係ねぇだろ」

そう言って、部屋へ戻ろうとした。

その瞬間、腕を掴まれる。

「っ、やめろ!」

反射的に、強く振り払ってしまった。

母さんが少しよろける。

そして、震える声で言った。

「蓮……ごめんなさい」

一瞬、思考が止まる。

でも、すぐに冷たく返した。

「何に謝ってんのか分かんねぇ」

簡単に許したくなかった。

母さんは、うつむいたまま続ける。

「ちゃんと、蓮と向き合ってこなかった」

今さら何だよ。

「せめて今、母親として、蓮が頑張ってることを手伝いたいの」

「どこまで知ってる」

「女の子のために頑張ってるって。
 だから、何か力に――」

「お前に何ができる」

遮るように言う。

静かな沈黙が落ちる。

すると、母さんがぽつりと呟いた。

「昔、一緒にケーキ作ったの覚えてる?」

――あ。

一気に、昔の記憶が蘇る。

親父の誕生日ケーキ。

不格好だったけど、
母さんはたくさん褒めてくれた。

母さんは昔、料理もお菓子作りも得意だった。

よく、俺たちに作ってくれていた。

……そうだ。

俺、母さんの作るお菓子が好きだった。

じゃあ、いつから変わった?

いつから、こんな風になった?

もしかして、俺が勝手に、
全部を悪い記憶に変えていたのか?

兄貴の時もそうだった。

母さんを見る。

目に涙を浮かべていた。

「……俺こそ、ごめん」

気づけば、勝手に言葉が出ていた。

「蓮……」

母さんの声が震える。

「また」

少しだけ間を置く。

「母さんのケーキ食べたい」

その瞬間、母さんの表情が崩れた。

「……っ」

涙が溢れていく。

「クリスマスのケーキ、作ってください」

そう言うと、母さんはその場にしゃがみ込み、
泣き始めた。

俺は黙って、ハンカチを差し出す。

「じゃあ、二十四日よろしく」

「……うん」

「俺も手伝うから」

それ以上、母さんの顔を見ていられなくて。

俺はすぐ、階段を駆け上がった。