白雪姫の王子様

次の日。

病室の前まで来た。

でも、なかなか扉を開けられない。

昨日見た、集中治療室の雪が頭から離れなかった。

でも――

昨日、自分で誓ったんだ。

逃げないって。

俺はゆっくり、扉を開けた。

カーテンが、静かに揺れる。

その隙間から、雪の姿が見えた。

「雪ちゃーん!今日も来たぜ〜!」

翔が真っ先に病室へ突撃する。

雪はベッドの上で、スケッチブックを開いていた。

青空の絵。

その姿を見て、少しだけ安心する。

でも、鼻にはまだ管がついていた。

昨日のことが、現実だったと思い知らされる。

「みんな来てくれたんだ!」

雪は嬉しそうに笑った。

「ありがと!」

その笑顔を見て、胸が締め付けられる。

「昨日は心配かけちゃって、ごめんね」

申し訳なさそうにうつむく雪。

そんな雪の頭を、そっと撫でた。

「雪は悪くないだろ」

そう言って、優しく笑いかける。

「……うん!」

雪も笑った。

でも、その瞳が少し揺れた気がした。

「雪」

莉子が、ぎゅっと抱きつく。

「私たちは、いつでも一緒だからね」

その勢いで、スケッチブックが机から落ちた。

拾おうとした瞬間、雪が慌てて先に取る。

……なんだ?

一瞬だけ違和感を覚えた。

でも、深く考えないことにした。

「そういえば!」

突然、莉子が大声を出す。

「うるさっ」

翔が顔をしかめる。

でも、莉子は気にしない。

「もうすぐ大イベントがありますよね!?」

嬉しそうに言う。

しかし、俺も含め、
三人とも何のことか分かっていなかった。

「はぁ!?なんで分かんないの!?」

「だからうるせぇって」

「クリスマスだよ!クリスマス!」

その瞬間、翔が急にテンションを上げる。

「クリスマスか!!いいよなクリスマス!!」

「でしょ!?」

騒がしい二人。

そんな中、雪が不思議そうに首を傾げた。

「クリスマスって、そんなに楽しいの?」

……あ。

そうか。

雪は、そういう季節のイベントを、
ほとんど経験してないんだ。

「小さい頃はね」

莉子が楽しそうに説明する。

「サンタさんがプレゼント置いてってくれるの!」

「へぇ……!」

雪は本当に初めて聞くみたいな顔をしていた。

「あとパーティー!」

翔もテンション高く話し始める。

「ケーキ食って!肉食って!」

「すごいね!」

雪の顔がどんどん明るくなる。

「まぁウチらの年齢だと〜」

莉子がニヤニヤしながら、俺を見る。

「恋人とか友達でプレゼント交換したりね〜?」

……嫌な予感。

気づけば、雪も俺を見ていた。

少し動揺する。

「雪は何が欲しい?」

そう聞いてみた。

でも、雪は苦笑いを浮かべる。

「私は、いらないかな」

一瞬、空気が重くなる。

雪はそれに気づいたのか、慌てて話を変えた。

「蓮くんは?、「欲しいものないの?」

俺の欲しいもの。

考えたこともなかった。

すると、横から翔が口を挟む。

「雪が欲しいんだろ?」

「えっ……!?」

雪が真っ赤になる。

「やめろ」

翔を押し退ける。

でも、否定しきれない自分がいた。

「俺は……」

少し考える。

「特に欲しいものはない」

そう答えると、
雪が少しだけ寂しそうな顔をした。

その顔を見て、慌てて言葉を足す。

「雪の描いた絵が欲しい、青空の絵」

雪が目を丸くする。

でも、すぐにイタズラな笑みを浮かべて、言った。

「それだけでいいの?」

「……っ」

そして、気づけば口が勝手に動いていた。

「あとは……」

顔が熱くなる。

「ゆ、雪が欲しい」

……何言ってんだ俺。

「言うじゃん王子様〜!」

莉子がニヤニヤしながら腕を突いてくる。

「ついにですか〜?」

今度は翔。

雪は、自分で聞いたくせに真っ赤になっていた。

なんだこの空間。

感情処理が追いつかない。

最終的に、俺は無になることにした。

そんな俺がつまらなくなったのか、
莉子たちはまたクリスマスの話へ戻っていった。

「はぁ……」

自然とため息が零れた。

それでも、病室には、みんなの笑い声が響いている。

雪も、楽しそうに笑っていた。

その笑顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。

……ああ。

この時間が、ずっと続けばいいのに。