白雪姫の王子様

「……それでも」

勝手に、言葉が溢れた。

雪の母親の鋭い視線が、俺に向く。

「なんで、そんなに閉じ込めるんですか」

自分でも驚くくらい、まっすぐな声だった。

「閉じ込める?」

雪の母親が眉をひそめる。

「守ってるんです。何かあったらどうするんですか」


立て続けに、俺は厳しい言葉を投げかけられる。

「今の俺には、全部は無理です」

はっきり言う。

「でも」

一歩、前に出る。

「今、雪が笑ってる時間を、守りたい。雪の“やりたいこと“を手伝いたいんです」

雪が、こちらを見る。

表情は、怯えていたが、その瞳には絶望はなかった。

「それに、俺は雪の病気から逃げない」

雪の母親は、険しい顔をした。

「あなたに……雪の何がわかるの」

冷たい言葉。

そのとき――

「雪ちゃんのお母さん」

聞き覚えのある、低い声。

この声は……

振り返ると、兄貴が立っていた。

白衣のまま、静かに歩いてくる。

「院内の移動なら問題ないですよ」

母親の表情が、不安そうになる。

「何より、不思議なくらい、最近の雪ちゃんの体は安定している」

「……でも」

「時間と範囲は制限する。それなら大丈夫です」

医者としての兄貴の言葉。


長い沈黙。


雪の母親は、しばらく考え込むと、口を開いた。

「……雪、病室の外に出ることは許すわ」

「本当に!」

「でも、この人たちと関わるのはやめなさい」

その場の空気が、また一瞬にして冷たくなる。

「なんで……」

「見るからに不良だし、雪にいい影響を与えるとは思えないの」
 
「そんな……」

「それが嫌なら、病室で今まで通り、安静にしてて」

雪は俺たちに、助けを求めるように視線を向ける。

しかし、何もできず、思わず目を逸らしてしまった。

その時の、雪の表情は分からなかったが、
雪自身、深く傷ついたことだろう。

それでも、俺たちは無力だった。

「行くわよ、雪」

そう言うと雪の母親は、
雪の手を引き、去っていった。