白雪姫の王子様


公園へ入った瞬間、そこら中が、
キラキラと輝いていた。

木々に巻きついた光。

足元を照らす小さなライト。

冬の夜空に浮かぶ、無数の光。

まるで、別世界みたいだった。

「うわぁ……!」

雪が、子どもみたいに目を輝かせる。

そして、引き寄せられるみたいに、
イルミネーションの中へ駆け寄っていった。

赤いマフラーが揺れる。

その姿が、あまりにも綺麗で、思わず目を奪われた。

「きれいだね!蓮くん!」

雪が振り返る。

満面の笑顔。

今まで見た中で、一番嬉しそうな顔だった。

思わず、目を閉じてしまいそうになる。

眩しかった。

それは、イルミネーションの光なのか。

それとも、雪の笑顔なのか。

俺には、もう分からなかった。

「それじゃあ!」

いつの間にか近くへ来ていた莉子が、
楽しそうに手を挙げた。

「ここからは、二人組で行動しま〜す!」

「なんだよそれ」

翔が不満そうに眉を寄せる。

でも、莉子の考えてることはすぐ分かった。

きっと、俺と雪に気を遣ってくれているんだろう。

「私はこいつと行ってくるから」

そう言って、莉子は翔の腕を掴んだ。

「なんで俺なんだよ」

「なんで分かんないのよ、このバカ」

「はぁ?」

翔は全く気づいていないらしい。

そのまま半強引に、莉子に引っ張られていく。

途中、莉子が振り返った。

「中央の鉄塔集合ね!」

そう言って、二人は光の中へ消えていった。

雪は、その背中を不思議そうに見ている。

……気づいてないんだな。

「俺たちも行こう」

そう言って、雪へ手を差し出す。

「うん」

雪が、そっと俺の手を握った。

細くて、小さな手。

そして、冷たかった。

「寒いか?」

「ううん、大丈夫」

「そうか……」

俺は雪の右手を掴む。

そのまま、自分のコートのポケットへ入れた。

「こっちの方がマシだろ」

すると雪は、少しいたずらっぽく笑った。

「左手は寒いけどね」

思わず笑ってしまう。

そんな雪と一緒に、光のトンネルの中を歩いていく。

キラキラした光が、雪の横顔を照らしていた。

その時――


カシャ。


「えっ?」

雪が驚いて振り返る。

気づけば俺は、スマホで雪の写真を撮っていた。

「写真、撮っただけ」

「ずるい!」

雪が少し頬を膨らませる。

「私も蓮くん撮る!」

「雪スマホ持ってないだろ」

「む〜!」

スマホを奪おうとして、ぴょん、と背伸びする雪。

俺は大袈裟に避けた。

「もうっ!」

頬を膨らませる雪。

その顔が可愛くて、思わずもう一枚撮る。


カシャ。


すると、雪が急にうつむいた。

……撮りすぎたか?

「雪、ごめ――」

謝ろうとした時だった。

「私……」

雪が小さく呟く。

「写真、撮られたことなくて……どんな顔すればいいか分からないの」

不安そうな声。

その言葉で、胸が少し痛くなる。

雪は、ずっと病院の中で生きてきた。

普通の思い出を、ほとんど持っていない。

だから――

「いつもの雪でいいんだよ」

そう言って、頭を優しく撫でた。

「急に撮って悪かった」

雪が、ゆっくり顔を上げる。

イルミネーションの光が、その瞳に映っていた。

「でも」

自然と、言葉が口から零れる。

「雪が綺麗だから、残したいって思った」

自分でも驚いた。

でも、今はちゃんと伝えたかった。

すると雪は、少しだけ照れたように笑った。

「分かった」

そして、小さな声で言う。

「今日の私、ちゃんと残しておいてね」

その言葉が、胸に重く沈んだ。

まるで、“忘れないで”って言われたみたいで。