病棟のフロアに着くと、看護師に案内されて、
“今日からここで簡単なお手伝いを”と言われた。
は?なんで俺がそんなことを……
そう、心の中で舌打ちしながら廊下を歩く。
無関心な顔、淡々とした足音。
“人を助ける場所”のはずなのに、
どこか冷たく感じるのは、俺のせいなのか。
それとも、この空気自体が冷たいのか。
ー―その時。
廊下の右手、半開きになった病室の扉の先。
ベッドの上に座る、ひとりの少女が目に入った。
髪は肩につくくらいの長さの黒髪。
頬はほんのり赤くて、でも肌は雪みたいに白い。
点滴をつけた腕に、絵筆を持って、
スケッチブックにゆっくりと色を重ねていた。
その少女が描いていたのは、空だった。
でもそれは、ただの空じゃない。
鮮やかな青に、白い雲。
光を反射するような空気感まである。
でも、同じ空なんて、今は見えていない。
それを、迷いなく描いていた。
……なに、あれ。
思わず声に出そうになって、慌てて飲み込んだ。
でも、真剣に絵を描く姿は、どこか強く見えた。
病気にも、現実にも、限られた時間にも、
ひとりで立ち向かってるようだった。
このときの俺は、まだ名前も知らないその少女から、
なぜか目を、離すことができなかった。
