白雪姫の王子様

コンコン。


扉をノックする音。

今度は誰だろう。

そう思っていると、
病室へ入ってきたのは、お母さんだった。

その瞬間、少しだけ体が強張る。

また、蓮くんにひどいことを言うかもしれない。

「お母さん、あのね――」

慌てて声をかけようとした、そのときだった。

突然、蓮くんが立ち上がる。

そして、深く頭を下げた。

「今日は、お時間をいただきありがとうございました」

驚いて、言葉を失う。

お母さんも、一瞬目を丸くしていた。

でも、すぐに優しく笑って、

「大丈夫よ。雪のために、ありがとうね」

そう言って、頭を上げるように促した。

蓮くんがゆっくり顔を上げる。


……何が起きてるんだろう。

私には、全然分からなかった。

「私はまだ」

お母さんが静かに口を開く。

「あなたの言っていたことを、全部受け入れられたわけじゃない」

「……はい」

蓮くんも、静かに頷く。

「でも」

お母さんが、私を見る。

「雪は、あなたたちに会いたがってる」

その言葉に、胸が熱くなる。

「だから」

少しだけ声を震わせながら、

「また、たくさん遊びに来てあげて」

お母さんの頬を、涙が静かに伝う。

「雪の“やりたいこと”叶えてあげてください。お願いします」

お母さんは、まっすぐ蓮くんを見て言った。

二人の間で、どんな会話があったのかは分からない。

でも、蓮くんは間違いなく、お母さんを変えた。

「明日から、再開だな」

蓮くんが、私に笑いかける。

その笑顔につられて、私も笑ってしまった。

「私も、できることがあれば協力するわ」

その光景が、なんだか信じられなかった。


蓮くんが帰ったあと、私はお母さんに、
何を話したのか聞いてみた。

でも、お母さんは教えてくれなかった。

ただ、少し困ったように笑っただけ。

でも――

今のお母さんの笑顔は、もう、作り物じゃない。

本物の笑顔だった。