白雪姫の王子様

家に帰ると、リビングの明かりがついていた。

嫌な予感がする。

リビングのドアを開ける。

そこにいたのは、親父だった。

ソファに座り、不機嫌そうな顔でこちらを見ている。


……めんどくせぇ。


無視して、二階へ向かおうとする。

「おい、蓮」

足を止める。


――やっぱりか。


「お前、今日病院で揉め事を起こしたそうじゃないか」

雪の母親のことだ。

「夏休みは熱心にボランティアに参加していると思っていたが」

淡々とした声。

「患者に同情して、悪影響を及ぼしていたとはな」

「……」

「さらに、お前のタチの悪い仲間も出入りして、挙げ句の果てに、患者の親と揉め事」

なんだよ、その言い方。

翔と莉子を、そんな風に言うな。

「失敗作だとは思っていたが、ここまでとはな」


……また、それか。


言い返す気も失せる。

「もう二度と、あの患者には関わるな」

親父は静かに、言い切る。

「これ以上問題を起こされると、病院の評判にも関わる」


……ああ。

親父にとって大事なのは、病院と、自分の立場だけ。

雪は、その中の“ただ患者の一人”。


「……分かったよ」

それ以上、話す気はなかった。

そのまま部屋に戻る。

ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。

「……」

さっきの光景が、頭から離れない。

笑ってた雪。

楽しそうにしてた顔。

……ああいう時間を、俺が壊すのか。

親父の言ってることは、間違ってない。

揉め事を起こせば、雪に負担がかかる。

俺のせいで、何かあったら――

それが、一番怖い。

「……」

ゆっくりと、息を吐く。


……だったら。

俺が、離れればいい。

それが、一番安全だ。

自分の気持ちより、雪が生きることの方が大事だろ。

……分かってる。

分かってるけど――



「……クソ」


小さく、吐き捨てる。

スマホを手に取る。

画面に、翔と莉子の名前が並ぶ。
一瞬、指が止まる。

でも、勇気を出して打ち込む。

『もう、雪に関わるのはやめよう』


送信。


既読がつくのが、やけに早かった。

でも、その先を開く勇気はなかった。

スマホを伏せる。

目を閉じる。


 ……これでいい。

これが、一番いい。


そう、自分に言い聞かせた。