次の日の夕方。
今日もノックの音がした。
一瞬、昨日の莉子さんの言葉が、
頭をよぎった。
「……どうぞ」
ドアが開く。
そこに立っていたのは、莉子さんだった。
自分の体が、強張るのを感じる。
でも、そこに立っている彼女は、
昨日とは、違う顔をしている。
「……」
莉子さんは黙ったままだ。
何を言われるのか、少し怖かった。
でもーー
「……ごめん」
「……え?」
「昨日は、言いすぎた」
その声は、昨日よりずっと小さく、弱々しかった。
「私もーー」
「違う」
言葉を遮られる。
「……あんた、何も悪くない」
なんて、声を掛ければいいかわからない。
「……ほんと、ムカつく」
え。
「そういうとこ」
少しだけ、優しい声。
「……ねぇ」
莉子さんが、真面目な顔になる。
「蓮のこと、好きなんでしょ」
時が、止まる。
好き……。
今まで、考えたことなかった。
違う。
「私……今まで、そんな感情持っちゃいけないと思ってた」
初めて口にした、私の本音だった。
「どうして?」
「だって、いつ死ぬかわからない」
「……」
「それに、私のせいで悲しむ人が増えるのが嫌っ」
涙が溢れそうになり、布団をぎゅっと掴んだ。
「いつ死ぬかわからないなんて、みんな同じだよ」
それはそうだ。
事故や事件。
いつ、何で命を落とすかなんて、
誰にもわからない。
でも……
私は死ぬことが、命の期限が、決まっている。
「それに、そうやって、自分ばっかり不幸そうにしてるの、ムカつく」
「え?」
「なんで、諦めちゃってるの?」
「……何を?」
「生きること」
その言葉に驚く。
考えたことがなかったから。
自分の命の期限は決まっていて、
比例するように、体も弱くなっている。
「蓮はさ」
莉子さんが、私の方へ歩いてくる。
「あんたが“やりたいこと“全部叶えるって言ってた」
「蓮くんが……?」
「それだけ、あんたのこと思ってんの、蓮は」
知らなかった、
蓮くんがそこまで考えてくれていたなんて。
「それで、私は昨日まで蓮のこと“好きだった“」
好き“だった“?
「昔から、私は蓮のことが好きだったの」
莉子さんは、今までのことを話してくれた。
蓮くんが、何度も自分を救ってくれたこと。
いじめられていた過去や、自分がしてきたこと。
全部、隠さずに。
そして――
その全部から、蓮くんが救い出してくれたことを。
「だから、好きになったんだよね」
少しだけ照れくさそうに、笑う。
「私にとって蓮は、かっこよくて……なんか、王子様みたいな存在だったの」
「そうだったんだ……」
やっぱり、蓮くんはすごい。
「でもさ」
そのあと、少しだけ表情が変わる。
「昨日、気づいたんだよね」
「え?」
「蓮って、王子様なんかじゃないなって」
予想外の言葉に、思わず目を見開く。
「だってさ」
少しだけ、苦く笑う。
「好きって気持ち否定して、逃げて」
「.......」
「あんたが死ぬことも、“仕方ない”って受け入れてた」
それの、どこがいけないんだろう。
私には、それが“普通”に思えた。
「王子様ってさ」
莉子さんが、少しだけ前を向く。
「絶対に諦めないの」
強い声だった。
「どんな状況でも、逃げないで、ちゃんと向き合うの」
その言葉が、胸に残る。
「だから、蓮は王子様じゃない」
少しだけ笑う。
「でも」
莉子さんは小さく、続ける。
「王子様になれるやつだとは思った」
その言葉に、少しだけ胸が温かくなる。
「雪」
莉子さんは、まっすぐ私を見ている。
「昨日は、ごめん」
まっすぐ頭を下げる。
「ほんとに最低なこと言った」
「……」
「傷つけた」
その言葉に、迷いはなかった。
「許してもらえるなんて思ってないけど――」
「許すよ」
気づいたら、口に出ていた。
莉子さんが顔を上げる。
「……確かに、昨日は傷ついた」
正直に言う。
「でもね」
少しだけ、息を吸う。
「今日、莉子さんが言ってくれたこと」
「......」
「すごく嬉しかったの」
莉子さんが、少しだけ目を見開く。
「今まで、ずっと、死ぬことが当たり前だと思ってた」
そう、自分で、期限を決めてた。
言葉が、少しだけ震える。
「でも......今日、気づいたの」
胸の奥から、こぼれる。
「私……もっと、生きたい」
静かに、言葉が落ちる。
蓮くんにも言えなかった言葉。
たぶん、自分でも気づいてなかった、本音。
「……」
莉子さんの目に、涙が浮かんでいるのが見えた。
「だから」
少しだけ、勇気を出す。
「私……莉子さんと、友だちになりたい」
言ってから、少しだけ怖くなる。
でも――
莉子さんは、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
そっと、私の手を握る。
昨日とは違う、やわらかいぬくもり。
「よろしくね、雪」
そう言って、莉子さんは笑う。
「……うん」
私も、つられて笑った。
「こちらこそ、よろしく。莉子さん」
「え、さん付け?」
「だって、年上だし……」
「関係ないって」
「でも......」
「今日から友達なんだから、呼び捨て」
少しだけ、迷う。
照れくさいし、慣れない。
「……よろしく、莉子」
そう私が言うと、
莉子は、満足そうに笑った。
今日もノックの音がした。
一瞬、昨日の莉子さんの言葉が、
頭をよぎった。
「……どうぞ」
ドアが開く。
そこに立っていたのは、莉子さんだった。
自分の体が、強張るのを感じる。
でも、そこに立っている彼女は、
昨日とは、違う顔をしている。
「……」
莉子さんは黙ったままだ。
何を言われるのか、少し怖かった。
でもーー
「……ごめん」
「……え?」
「昨日は、言いすぎた」
その声は、昨日よりずっと小さく、弱々しかった。
「私もーー」
「違う」
言葉を遮られる。
「……あんた、何も悪くない」
なんて、声を掛ければいいかわからない。
「……ほんと、ムカつく」
え。
「そういうとこ」
少しだけ、優しい声。
「……ねぇ」
莉子さんが、真面目な顔になる。
「蓮のこと、好きなんでしょ」
時が、止まる。
好き……。
今まで、考えたことなかった。
違う。
「私……今まで、そんな感情持っちゃいけないと思ってた」
初めて口にした、私の本音だった。
「どうして?」
「だって、いつ死ぬかわからない」
「……」
「それに、私のせいで悲しむ人が増えるのが嫌っ」
涙が溢れそうになり、布団をぎゅっと掴んだ。
「いつ死ぬかわからないなんて、みんな同じだよ」
それはそうだ。
事故や事件。
いつ、何で命を落とすかなんて、
誰にもわからない。
でも……
私は死ぬことが、命の期限が、決まっている。
「それに、そうやって、自分ばっかり不幸そうにしてるの、ムカつく」
「え?」
「なんで、諦めちゃってるの?」
「……何を?」
「生きること」
その言葉に驚く。
考えたことがなかったから。
自分の命の期限は決まっていて、
比例するように、体も弱くなっている。
「蓮はさ」
莉子さんが、私の方へ歩いてくる。
「あんたが“やりたいこと“全部叶えるって言ってた」
「蓮くんが……?」
「それだけ、あんたのこと思ってんの、蓮は」
知らなかった、
蓮くんがそこまで考えてくれていたなんて。
「それで、私は昨日まで蓮のこと“好きだった“」
好き“だった“?
「昔から、私は蓮のことが好きだったの」
莉子さんは、今までのことを話してくれた。
蓮くんが、何度も自分を救ってくれたこと。
いじめられていた過去や、自分がしてきたこと。
全部、隠さずに。
そして――
その全部から、蓮くんが救い出してくれたことを。
「だから、好きになったんだよね」
少しだけ照れくさそうに、笑う。
「私にとって蓮は、かっこよくて……なんか、王子様みたいな存在だったの」
「そうだったんだ……」
やっぱり、蓮くんはすごい。
「でもさ」
そのあと、少しだけ表情が変わる。
「昨日、気づいたんだよね」
「え?」
「蓮って、王子様なんかじゃないなって」
予想外の言葉に、思わず目を見開く。
「だってさ」
少しだけ、苦く笑う。
「好きって気持ち否定して、逃げて」
「.......」
「あんたが死ぬことも、“仕方ない”って受け入れてた」
それの、どこがいけないんだろう。
私には、それが“普通”に思えた。
「王子様ってさ」
莉子さんが、少しだけ前を向く。
「絶対に諦めないの」
強い声だった。
「どんな状況でも、逃げないで、ちゃんと向き合うの」
その言葉が、胸に残る。
「だから、蓮は王子様じゃない」
少しだけ笑う。
「でも」
莉子さんは小さく、続ける。
「王子様になれるやつだとは思った」
その言葉に、少しだけ胸が温かくなる。
「雪」
莉子さんは、まっすぐ私を見ている。
「昨日は、ごめん」
まっすぐ頭を下げる。
「ほんとに最低なこと言った」
「……」
「傷つけた」
その言葉に、迷いはなかった。
「許してもらえるなんて思ってないけど――」
「許すよ」
気づいたら、口に出ていた。
莉子さんが顔を上げる。
「……確かに、昨日は傷ついた」
正直に言う。
「でもね」
少しだけ、息を吸う。
「今日、莉子さんが言ってくれたこと」
「......」
「すごく嬉しかったの」
莉子さんが、少しだけ目を見開く。
「今まで、ずっと、死ぬことが当たり前だと思ってた」
そう、自分で、期限を決めてた。
言葉が、少しだけ震える。
「でも......今日、気づいたの」
胸の奥から、こぼれる。
「私……もっと、生きたい」
静かに、言葉が落ちる。
蓮くんにも言えなかった言葉。
たぶん、自分でも気づいてなかった、本音。
「……」
莉子さんの目に、涙が浮かんでいるのが見えた。
「だから」
少しだけ、勇気を出す。
「私……莉子さんと、友だちになりたい」
言ってから、少しだけ怖くなる。
でも――
莉子さんは、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
そっと、私の手を握る。
昨日とは違う、やわらかいぬくもり。
「よろしくね、雪」
そう言って、莉子さんは笑う。
「……うん」
私も、つられて笑った。
「こちらこそ、よろしく。莉子さん」
「え、さん付け?」
「だって、年上だし……」
「関係ないって」
「でも......」
「今日から友達なんだから、呼び捨て」
少しだけ、迷う。
照れくさいし、慣れない。
「……よろしく、莉子」
そう私が言うと、
莉子は、満足そうに笑った。
