白雪姫の王子様

「じゃあ、また」

そう言って病室のドアを閉める。

廊下に出た瞬間、さっきの言葉が頭の中で何度も繰り返された。

「……はぁ」

思わずため息が出る。

なんだよ、あれ。

「……告白みてぇじゃねぇか」

自分で言って、余計に恥ずかしくなる。


らしくねぇ。

好きとか、そんなんじゃねぇのに。


頭をかきながら、歩き出す。

さっきの雪の顔が、浮かぶ。

ああいう顔、するんだな。

「……蓮」

いきなり、後ろから呼び止められる。

振り返ると、莉子が立っていた。

「……なんだよ」

自分の声が、少し冷たくなるのを感じる。

「さっきのさ」

莉子がまっすぐに、俺を見る。

「……あの子のこと」

「……」

「……好きなの?」

一瞬、時間が止まる。

「は?」

思わず聞き返す。

「ちょっと来て」

そう言って、莉子は俺の腕を引っ張り、
病院の屋上へと連れてきた。

莉子は、少しだけ息を吸う。

「私、蓮のこと好きなんだけど」


……は?


莉子の言葉に頭が、追いつかない。

「だからさ……」

少しだけ声が震えている。

「ちゃんと答えてほしい」

全てが、やけに静かに感じた。

「……悪いけど」

考えるより先に、言葉が出る。

「そういうのじゃねぇ」

「……どっち?」

うまく言葉にできない。

莉子は、そんな俺を問い詰める。

「私のこと?それともーー」

「……」

莉子が言いたいことは、わかっている。

でも、言葉が出てこない。

一瞬、迷う。

でもーー

「あいつは、違う」

口に出していた。

「そういうんじゃねぇ」

莉子の表情が、少し歪む。

「じゃあ、何」

強い声。

答えられない。

自分でも、まだ分かっていない。

でも、

「……あいつさ」

また勝手に口に出していた。

「時間がないんだ」

空気が止まる。

「……は?」

莉子の顔から、表情が消える。

「だから」

言葉を探す。

「やりたいこと、全部やるって言ってて」

なぜか、うまく言葉にできない。

「……それで、俺は」

そこで、言葉に詰まる。

「……それに、付き合ってるだけだ」

「……なに、それ」

小さく、莉子がつぶやく。

「ずる」

その一言が、引っかかる。

「……なんだよ」

「勝てるわけないじゃん、そんなの」

莉子は呆れたように、笑った。

でも、その目は全然笑っていない。

「それさ」

「……」

「好きってことじゃん」

その一言で、思考が停止する。

なぜか、否定できなかった。

頭の中に浮かぶのは、雪の顔ばかり。

笑った顔。

安心した顔。

泣きそうな顔。

「……」

胸の奥が、熱くなる。

「……俺」

ぽつりと、言葉が漏れる。

「たぶん、分かってた」

自分でも、驚いた。

俺の素直な声だった。

「でも」

でも……

「……怖えから」

その一言で、全部繋がる。

「失うのが?」

「……ああ」

短く答える。好きになったら、
終わった時に、全部失ってしまう。

だから、線を引いた。

……でも

「もう無理だわ」

苦く笑う。

気づいた時点で、もう引き返せない。

「……そっか」

莉子が、少しだけ目を伏せる。

「じゃあさ、最後までちゃんといなよ」

その言葉は、責めているようではなかった。

でも、どこかに強い意志を感じた。

「中途半端が一番ダサいから」

「……うるせぇよ」