白雪姫の王子様

その後の雪のやりたいことは、
簡単なものばかりだった。

売店でお菓子を買ったり、
庭で少し話したり、
一緒に空の絵を描いてみたり。

「あはは、蓮くんって絵苦手なんだね」

「うるせぇよ」

なんてこんな、何気ない会話をしてみたり。

特別なことは、何もない。

でも、そのひとつひとつが、
やけに大事な時間に感じた。

気がつけば、夏休みを終わろうとしている。

「もう、夏も終わっちゃうね」

雪が、窓の外を見ながら言う。

「……そうだな」

少しだけ間が空く。

「蓮くんも、学校始まっちゃったら、こんな風に会えなくなっちゃうね」

その言葉に、なんて返せばいいかわからなかった。

「……まぁ」

曖昧に、そう答える。

雪は少しだけこっちを見て、それからふっと笑った。

「前から思ってたんだけどさ」

「ん?」

「蓮くんって不良なの?」

「そんなんじゃねぇよ」

即答する。

雪はくすっと笑った。

「じゃあ、サボらずに学校行くんだよ」

「はぁ?」

思わず声が出る。

「だって、私が学校行けないから、その分まで勉強してもらわないとだしね」

「はぁ?なんでお前にーー」

「いいの。ちゃんと学校に行く」

少しだけ、真面目な顔になる雪。

「約束」

その一言が、やけに重く感じた。

「……わかったよ」

ため息まじりに答える。

それを聞いて、雪は満足そうに笑った。

その笑顔を見ながら、
胸の奥が、少しだけざわつく。

夏が終わる。

ただそれだけのことなのに、
何かが変わってしまいそうでーー

少しだけ怖かった。