白雪姫の王子様

外に行く準備は、思ったより時間がかかった。

看護師に声をかけて、許可をもらって、
点滴を外す。

そのひとつひとつが、やけに慎重で……

雪にとっての“外に出る“ことの重さを、実感させた。

一緒に、廊下を歩く。

雪の歩く姿が、弱々しく見えた。

エレベーターを降りる。

今から行くのは、外と言っても病院内にある庭だ。

庭は普通に公園程度の広さで、
大きな木もあり、小さな池もある。

「……ここ」

雪が小さく呟く。

「庭。病院の中だけど、一応“外“だろ」

「そうだね。早く行こ」

雪は嬉しそうに、俺を引っ張った。

「……開けるぞ」

そう言って、ドアを押す。

外の空気が、ふっと流れ込んできた。

改めてみると、病院の庭にしては立派なのかもしれないと思った。

この病院の大きさと、
院長である親父の偉大さを感じる。

それと同時に、自分が“失敗作“ということを実感させられた。

「……はぁ」

ため息をついて、嫌な気分になっている俺をよそに、

「ほんとに、外だ」

雪は嬉しそうに外へと一歩踏み出した。

「おい、1人で行ったら危ないだろ」

と、急いで雪の腕を掴む。

細い。

掴んだ腕の細さに驚く。

「……青い」

でも雪は、俺のことなんか気にせず、
少しだけ空を見上げながら、呟いた。

雪を見る。

風で、髪が揺れる。

目を細めて、光を受けている。

そんな雪から、目を離すことができない。

「蓮くん」

雪は名前を言いながら、俺の方を見る。

「ありがと」

雪の優しい声と、温かい笑顔。

それだけなのに、
胸の奥が、じんわり熱くなる。

「……別に」

なんだか、照れくさくなり、目を逸らす。

「次はさ、もっと外に行ってみたいね」

雪は明るい声で言った。


……それは無理だろ。


そんな風に、言ってしまいそうになった自分がいた。

俺は結局、雪の言葉に、すぐには返せなかった。


……でも。


「……考えとく」

それだけ言った。

そんな俺に、雪は笑顔で

「ありがと」

と、言った。

その笑顔が、
さっきより少しだけーー

自由に見えた。