白雪姫の王子様


また、気まずい空気。

沈黙が続いて、息が詰まりそうになる。

俺は耐えられ無くなって、口を開いた。

「……さっきの“やりたいことリスト“ってなに?」

雪は驚いたような顔をしたが、
それから少しだけ困ったように笑った。

「私ね……」

急に今までとは違う、弱々しい声。

そして、雪は静かに続きを話し始める。

「小さい頃から体が弱くて、ほとんど病院で過ごしてきたの」

その言葉で、さっきの雪の、質問攻めの理由がわかった気がした。

雪がゆっくりノートを取り出す。

「それで、今もどんどん体は悪くなってて……」

胸の奥が、ざわつく。

なんか、嫌な感じがした。

「3ヶ月持つかどうかって言われちゃったんだよね」

気まずそうに笑う雪。


……は?

3ヶ月?

目の前にいる、こいつが?

3ヶ月で、いなくなってるかもしれないって?


言葉が出なかった。

そんな俺を見かねた雪が、

「だから私ね、やりたいことは全部やってやる!って思って、リストにしてたの」

そう明るく言った。


……なんだよ、それ。

なんでそんなふうに言えるんだよ。


そんなことを考えていたら、
無意識のうちに俺はこう言っていた。

「ひとつずつ、叶えてみる?」

言った後で、自分でも驚いた。


なに言ってんだ、俺。

こんなこと、キャラでもねぇだろ。


なのに、勝手に口が動いていた。

雪は驚いた顔をしたまま、俺を見て固まっている。


……やめろ。そんなふうに見るな。

こっちは今、自分がなに言ったかも受け入れられないでいるのに。


「……蓮くん」

小さな声。

「それって、本気で言ってる?」

雪の声は静かで、
真剣な表情で俺をまっすぐに見ている。

俺の言葉を疑っているわけじゃない。

でも、どこか信じきれないみたいな響きだった。

「……できるかどうかは知らねぇけど」

雪から視線を逸らし、無愛想に言う。

なんで俺はこんな言い方しかできねぇんだよ。


……自分で自分にイラつく。


それでも雪は、少しだけ笑った。

「じゃあ、ひとつだけ」

「お、おう……」

自分で約束したくせに、叶えてやれるか、
だんだん不安になってくる。

「一緒にアイス、食べてみたい」

たったそれだけの願いだった。

簡単なはずなのに、
なぜか、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

「……それくらいなら」

ぼそっと答える。

「ありがと」

雪はそう言って、嬉しそうに笑った。

その笑顔を見た瞬間、俺は気づいてしまった。

もうーー

引き返せない。


その日は、なんだか雪の顔をみることができず、
そのまま病室を出た。