ああ出てこないで、幻。
「ふーん?」
「ほんと、ほんとだし!」
「じゃあ、?」
「え、と」
「 火之宮正照?」
「んと」
「 木野島楽は?」
「えー…」
「ふふははは!全然覚えていないじゃない!」
そんなに笑うなんて酷い。
思わずぷーっと頬を膨らませると。
「怒らないで綴」
後ろからつんつんと頬を突かれて、プシューと頬が凹む。
もう…。
可愛らしいその仕草に嫌でも許す気持ちになってしまう。やっぱりズルい。
「可愛いわ、綴」
ふふと耳元に吐息が当たり、ゾワゾワする。
…このシュチエーション私が男だったら運命的な出会いかもしれない。
ボーイミーツガール的な。
定番の出会いだよね、これは。
我が儘美少女(顔見ていないけれど暫定)に振り回される平凡男子。(男じゃないけど)
「ねえ綴」
「ん?」
そんなお馬鹿なことを考えていたら、
「どうして私を見て懐かしそうな顔をしたの?」
冷や水をぶっかけられた。
そう思うほどの衝撃を与えられて、足が止まる。
「懐かしそうな顔をしたと思ったら、苦しそうな顔もして…ねえ?」
彼女の手がするすると首元を撫でる。
その動きがまるで、
「ーーー何で?」
死神が自分の首に鎌を当てているように感じた。
声が無邪気を装って、致命傷を与えようとしてくる。
「どうしたの?」
『どうしたの?』
突然おんぶしている彼女が、あの子に入れ変わった気さえする。
“観念しろ”
そう、言われている気がした。



