過つは彼の性、許すは我の心 壱


 ああ出てこないで、幻。


「ふーん?」

「ほんと、ほんとだし!」

「じゃあ、?」

「え、と」

火之宮正照(ひのみやまさてるは)?」

「んと」

木野島楽(きのしまらく)は?」

「えー…」

「ふふははは!全然覚えていないじゃない!」


 そんなに笑うなんて酷い。


 思わずぷーっと頬を膨らませると。


「怒らないで綴」


 後ろからつんつんと頬を突かれて、プシューと頬が凹む。


 もう…。


 可愛らしいその仕草に嫌でも許す気持ちになってしまう。やっぱりズルい。


「可愛いわ、綴」


 ふふと耳元に吐息が当たり、ゾワゾワする。


 …このシュチエーション私が男だったら運命的な出会いかもしれない。

 ボーイミーツガール的な。

 定番の出会いだよね、これは。

 我が儘美少女(顔見ていないけれど暫定)に振り回される平凡男子。(男じゃないけど)


「ねえ綴」

「ん?」


 そんなお馬鹿なことを考えていたら、


「どうして私を見て懐かしそうな顔をしたの?」


 冷や水をぶっかけられた。


 そう思うほどの衝撃を与えられて、足が止まる。


「懐かしそうな顔をしたと思ったら、苦しそうな顔もして…ねえ?」


 彼女の手がするすると首元を撫でる。

 その動きがまるで、


「ーーー何で?」


 死神が自分の首に鎌を当てているように感じた。


 声が無邪気を装って、致命傷を与えようとしてくる。


「どうしたの?」
『どうしたの?』


 突然おんぶしている彼女が、あの子に入れ変わった気さえする。


 “観念しろ”


 そう、言われている気がした。