過つは彼の性、許すは我の心 壱


 来る必要はないんだけど。

 それでも来てしまうのは、

 
「どうした、妃帥」


 声までこんなに良いなんて、ズルい。


「最近お兄様忙しかったでしょう?」

「…そうだな」

「だから、お兄様にも癒しが必要かなって」


 兄妹の何気ない会話。

 何気ない日常の一コマなのに、窓から入る日の光に照らされた獅帥は本当に美しい。

 後光を背負った、それこそ神様のように見える。

 皆が2人の会話を注視しているのにも関わらず、1人だけ見惚れてしまう私は本当に馬鹿だろう。

 分かってはいる。

 自分がただの幼馴染で従姉妹だから、獅帥もある程度目を掛けてくれていることを。

 そもそも獅帥は特別を作らない。

 それは“獅帥が特別を作ること”自体に大きな意味があるから慎重になっている…でもなく。

 獅帥はどんなに愛しても、縋っても、彼は人を好きにならない。

 私は、


『どうする?』

 
 一回だけ彼に触れる許可を与えられた。

 頬に彼の白く長い指先が触れ、歓喜に胸を踊らされた。

 イブが蛇に唆されて食べた、真っ赤で美味しそうな果実を目の前にぶら下げられて、喜ばない人間が何処にいる?

 自ら禁断の果実に触れようと手を伸ばしかけーーー…。


『私はっ………いい』


 手を下ろした。

 今思い出しても時々後悔することがある。