来る必要はないんだけど。
それでも来てしまうのは、
「どうした、妃帥」
声までこんなに良いなんて、ズルい。
「最近お兄様忙しかったでしょう?」
「…そうだな」
「だから、お兄様にも癒しが必要かなって」
兄妹の何気ない会話。
何気ない日常の一コマなのに、窓から入る日の光に照らされた獅帥は本当に美しい。
後光を背負った、それこそ神様のように見える。
皆が2人の会話を注視しているのにも関わらず、1人だけ見惚れてしまう私は本当に馬鹿だろう。
分かってはいる。
自分がただの幼馴染で従姉妹だから、獅帥もある程度目を掛けてくれていることを。
そもそも獅帥は特別を作らない。
それは“獅帥が特別を作ること”自体に大きな意味があるから慎重になっている…でもなく。
獅帥はどんなに愛しても、縋っても、彼は人を好きにならない。
私は、
『どうする?』
一回だけ彼に触れる許可を与えられた。
頬に彼の白く長い指先が触れ、歓喜に胸を踊らされた。
イブが蛇に唆されて食べた、真っ赤で美味しそうな果実を目の前にぶら下げられて、喜ばない人間が何処にいる?
自ら禁断の果実に触れようと手を伸ばしかけーーー…。
『私はっ………いい』
手を下ろした。
今思い出しても時々後悔することがある。



