誰もいない廊下に2人分の足音が響く。

 偶々人がいなかったおかげで、視線に晒されることもなく気分は悪くない。

 収穫もあったしね。


「…」

「…」

 
 でも、獅帥はそうでもないらしい。


 いつもみたい私から話すのを待っているのが分かるけれど、今回に関しては話す気はないので黙って身を任せる。私達の半歩後ろにはカズミがいる。

 表情からは何も読み取れないけれど、きっとカズミも驚いてはいる。

 そう、驚いている… だけ(・・)

 だってカズミは、私がしていることを受け入れるだけの存在。

 それしか許されていない。


 あの頃は、


『妃帥ちゃん』


 って呼んでたのに、今じゃ大きく変わってしまった。


 この3人でいると、嫌でも昔を思い出す。

 あの日々が、地獄が、私達に降り注ぐ。

 左目の辺りが疼く。


 あの時の痛みも、辛さも、私たちの中に残って燻り続けているというのに。

 ああ、腹立たしい。

 
「妃帥、何故だ」


 漸く口を開けたらこれだ。

 何回同じことを言わせるのか、本当に腹が立つ。

 私は首に爪を立てて、くだらない質問に答える気がないと態度で示した。


「…何がある」

「…」


 アレに、と続くのは。


『可愛いいい本当すっごい、何でこんなに可愛いのおおお!!』

『お義兄さん、絶対に妹さんを幸せにします!』

『妃帥ちゃん…!』


「ふふっ…」

「…」