怯えただろうに、怖かっただろうに。
押し付けられた折り畳み傘が、温もりが。
彼女との穏やかな時間が。
安らぎ等欲しいとも思わなかったのに、随分強欲になったものだと嗤う。
「お前にも役目があるってことか」
海祇渚は納得した様に腕を組んだ。
話が早いのは助かる。
「俺も暫くは派手には動けないんで、本当に頼みましたよ」
「…お互い苦労すな」
「ええ全く」
自由とは程遠い人生だがーー…ああでもそれは俺らだけじゃ無いか。
あの朴念仁に、あの女。
少しだけあの女に同情した。
「学内なら俺がいるからどうとでもなるし、流石にお前に言われたら天條側も動かざる得ないだろう。ただ、その天條の家でのことは…頼んだぞ凌久」
「分かってる、俺かてつづには平和でいて欲しい」
それに、と土師凌久は付け加えた。
「天女目にちょいした知り合いがおるさかい、最悪なんかあったらそっち頼る」
「知り合い?」
俺の問いに頭の後ろで両腕を組む土師凌久は「色々あって親の元じゃ暮らせんと、ちょおっと京都で暮らしとった」と話す。
「色々あってなんや?」
「まあそら色々やで」
「けったいな伝手ちゃうねんな?」
「うん、俺らよりまとも」
本当かよと、海祇渚がジト目で土師凌久を見ているが、探りをのらりくらりと交わしている所から、きっとここで言う気はないんだろう。



