「はい」
保健室の長椅子に降りる様促すと素直に座る着物少女。
足をふらふらと彷徨わせて、何処か考えている様子だった。
そうだ、今更だけど。
「それで、名前ーーー」
『1年生、唐堂綴。今すぐ職員室に来なさい』
放送に邪魔された。
ピンポンパンポーンという音ともに溜息が出る。
「ふふっ…綴行ってきなさい」
「大丈夫なの?」
あんな咳き込んでいたら心配にもなる。
けれど。
「大丈夫よ、使用人を呼ぶから」
「あらそう…」
庶民に馴染みのない“使用人”という言葉の破壊力よ。
振り回されただけじゃんかという気持ちと、何でか別れるのを惜しくなる気持ちを抱えながら、保健室の入り口まで歩いて行く。
「綴」
明瞭な声に振り返る。
白い手をひらひらと振るいながら。
「また会えたら教えてあげる、私の名前」
同じ世界の人間とは思えない、異世界の住人の様な空気を醸し出す着物の少女は、それだけ言って直ぐにそっぽを向いていた。
もう興味ないと態度で表す彼女に、憤りを取り越して呆れてしまう。
しょうがない…。
私は先ほどより重いため息を吐いて、
「またね」
と言って、今度こそ保健室を後にした。
ーーーこの時の私達は、この出会いを直ぐに忘れてしまった。
忘れてしまったのはお互い理由があって。
一方は本当に瑣末ごととして忘れ、もう一方は。



