過つは彼の性、許すは我の心 壱


「はい」


 保健室の長椅子に降りる様促すと素直に座る着物少女。

 足をふらふらと彷徨わせて、何処か考えている様子だった。


 そうだ、今更だけど。


「それで、名前ーーー」

『1年生、唐堂綴。今すぐ職員室に来なさい』


 放送に邪魔された。

 ピンポンパンポーンという音ともに溜息が出る。


「ふふっ…綴行ってきなさい」

「大丈夫なの?」


 あんな咳き込んでいたら心配にもなる。

 けれど。


「大丈夫よ、使用人を呼ぶから」

「あらそう…」
 
 
 庶民に馴染みのない“使用人”という言葉の破壊力よ。

 振り回されただけじゃんかという気持ちと、何でか別れるのを惜しくなる気持ちを抱えながら、保健室の入り口まで歩いて行く。


「綴」


 明瞭な声に振り返る。

 白い手をひらひらと振るいながら。


「また会えたら教えてあげる、私の名前」


 同じ世界の人間とは思えない、異世界の住人の様な空気を醸し出す着物の少女は、それだけ言って直ぐにそっぽを向いていた。

 もう興味ないと態度で表す彼女に、憤りを取り越して呆れてしまう。

 
 しょうがない…。

 
 私は先ほどより重いため息を吐いて、


「またね」


 と言って、今度こそ保健室を後にした。



ーーーこの時の私達は、この出会いを直ぐに忘れてしまった。

 忘れてしまったのはお互い理由があって。

 一方は本当に瑣末ごととして忘れ、もう一方は。