◆
本来ならば、アレクシスと二人で行くはずだった仕事の出張。
だが、その期間内に皇帝が他国の王女たちとのお茶会(という名の見合い)をねじ込んでしまったものだから、アレクシスは帝都に残らなければならなくなった。
だからセドリックは、「茶会などやってられるか。俺もお前と行く」とごねるアレクシスを必死になだめすかし、一人で帝都を離れたのだ。
だが、仕事を終わらせ急いで戻ってくると、どうもアレクシスの様子がおかしい。
本人は上手く隠しているつもりだろうが、話しかけても上の空だったり、深刻そうに思い悩んでいることが増えた。
(これはきっと、茶会で何かあったのだろう)
そう考えたセドリックは、第二皇子に話を聞きにいった。
するとクロヴィスは、「どうやら、媚薬を盛られたらしくてな」と教えてくれる。
「媚薬?」
「ああ。だがアレクシスは一口飲んですぐに気付いたというから、特に大事はなかったはずだが。――とはいえ、女性への嫌悪感は一層増しただろう。まったく、女嫌いの弟に媚薬を盛るとは、何とも面倒なことをしてくれる」
「犯人はわかったのですか?」
「いいや、不明だ。というより『捜さなかった』という方が正しいな。何せ茶会の参加者は他国の王女。それも五人。毒ならともかく、媚薬程度では騒ぎたてたくないというのが宮内府の本音だろう」
「…………」
(媚薬、か)
セドリックは考え込む。
果たして、アレクシスが媚薬を盛られた程度で、ああも様子がおかしくなるだろうか。
女性に対する怒りや嫌悪感を強めることはあれど、何か物憂げに表情を暗くする必要などあるだろうか、と。



