【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

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「では、私はこれにて失礼させていただきます。近日中に必ず、主治医か専門の医師に診てもらってくださいね。先ほどご説明したとおり、私には確定診断は(くだ)せませんので」
「はい、先生。突然の往診に応じてくださり、心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました」
「いえ、医者として当然のことをしたまでですから。では、お大事に」

 その後、医師はエリスとシオンに簡単な妊娠の知識を授けると、礼儀正しく目礼し、退室していった。

 シオンはそんな医師の背中をエリスと共に見送って、内心大きく息を吐く。


 実はシオン、医師から妊娠の説明を聞き、漠然とした不安を抱き始めていた。

『今自分たちが置かれたこの状況は、かなり望ましくないものなのでは』――と。

 その理由は主に二つ。

 一つ目は、妊娠初期は流産の確率が高いこと。
 そして二つ目は、妊娠したのが他の誰でもない、皇子妃(エリス)であるということだった。

 先ほど医師は、安定期に入るまでは何が起こるかわからないため、一般的にはこのタイミングで周囲に妊娠を知らせることは多くない、と言っていた。
 つまり、妊娠初期のこの段階で、エリスの妊娠を身内以外に知られるのは望ましくない。

 けれど――これはシオン自身が真っ先に懸念したことであるが――皇子妃の懐妊(かいにん)は国家間の問題であるため、一度広まってしまえば、情報を止めるのは難しくなる。

 そうなれば当然、祖国の家の者たちにも知られることになるだろう。
 だが、もしもそんなことになれば、強欲な父は何をしでかしてくるかわからない。

 つまり、まだ何の手も打っていないこの状況で、エリスが妊娠した事実はどうあっても伏せておく必要があるのだが……。

 ――さて、どうするべきか。