「姉、さん……っ」
(肝心な時に、僕は何て役立たずなんだ)
終いには、あまりの恐怖に、ガクガクと手足を震えさせる始末。
こんな状態では、エリスを抱えて馬車を捕まえることすら、ままならない。
――けれど、そんなときだった。
まるで救世主と言わんばかりに、人だかりを掻き分けて、一人の少女が駆け付けてきたのは。
「道を開けなさい!」
と、声を張り上げてシオンの前に現れたのは、明らかに貴族の装いをした一人の少女だった。
ラベンダーブラウンの髪と瞳に、陶器のようにつるりとした白い肌。猫のようなくりっとした瞳。
薄紫色の美しいドレスを身に纏い、白いレースの手袋をしている。年齢はシオンと同じほど。
一見、深遠の令嬢にしか見えない彼女は、けれどその愛らしい見た目とは裏腹に、開いたままの日傘を無造作に投げ捨てて、エリスの前で素早く腰を落とした。
そしてエリスの脈と呼吸を確認するような素振りを見せると、呆気にとられるシオンを、睨むように見据える。
「見たところ、脈も呼吸も問題ないわ。だから、そんなに狼狽えるのはおやめなさい」
「……っ」



