「……姉さん?」
瞬間、シオンはさぁっと顔を青ざめる。
腕の中で力なく項垂れるエリスの姿に、シオンは全身の血の気が引くのを感じた。
「姉さん……? ねえ、どうしたの? ……姉さん、――姉さんったら!」
慌てて声をかけるが、エリスは小さな呻き声と共に瞼をわずかに震わせただけで、目覚める気配はない。
「――ッ!」
(どうしよう、どうしたら……)
シオンは焦りと恐怖のあまり、地面に膝を着けた体勢のまま、ブルブルと身体を打ち震わせる。
(……とにかく、病院。……そう、病院に……。でも、ここから一番近い病院って……)
シオンはエリスの身体を抱き締めながら、図書館周辺の地図を必死に思い浮かべようとした。
けれど、どうしても上手くいかない。覚えたはずの地図なのに、少しも思い出すことができないのだ。
「……くそッ」
もしも倒れたのがエリス以外の人間だったなら、シオンはいくらでも冷静に対処できただろう。
周りに協力を求めるなり、容態を正しく観察するなりできたはずだ。
病院の場所だって、辻馬車の御者に「一番近い病院に向かってくれ」と伝えれば済む話。
けれどエリスのこととなると、シオンは全く冷静さを保つことができなかったのである。



