【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜




「……姉さん?」



 瞬間、シオンはさぁっと顔を青ざめる。

 腕の中で力なく項垂(うなだ)れるエリスの姿に、シオンは全身の血の気が引くのを感じた。

「姉さん……? ねえ、どうしたの? ……姉さん、――姉さんったら!」

 慌てて声をかけるが、エリスは小さな呻き声と共に瞼をわずかに震わせただけで、目覚める気配はない。

「――ッ!」
(どうしよう、どうしたら……)

 シオンは焦りと恐怖のあまり、地面に膝を着けた体勢のまま、ブルブルと身体を打ち震わせる。

(……とにかく、病院。……そう、病院に……。でも、ここから一番近い病院って……)

 シオンはエリスの身体を抱き締めながら、図書館周辺の地図を必死に思い浮かべようとした。

 けれど、どうしても上手くいかない。覚えたはずの地図なのに、少しも思い出すことができないのだ。

「……くそッ」


 もしも倒れたのがエリス以外の人間だったなら、シオンはいくらでも冷静に対処できただろう。
 周りに協力を求めるなり、容態を正しく観察するなりできたはずだ。

 病院の場所だって、辻馬車の御者に「一番近い病院に向かってくれ」と伝えれば済む話。

 けれどエリスのこととなると、シオンは全く冷静さを保つことができなかったのである。