「……っ」
(何かしら。……何だか、急に胃がムカムカするわ)
列に並んですぐ、エリスは突如として、言いようのない気持ち悪さに襲われた。
売店から漂ってくる油の匂いのせいだろうか。
最初はすぐに収まるだろうと考えていたエリスだが、その気持ち悪さは収まるどころか酷くなり、ものの一分も経たないうちに強烈な吐き気へと変わっていく。
そこでようやく、エリスは自身の身体の異常に気が付いた。
明らかに、何かがおかしい、と。
(……吐き、そう)
気持ちが悪い。頭が痛くて、耳鳴りがする。
目の前がくらくらして、今にも倒れてしまいそうになる。
――とにかく、気分が悪い。
(……急に、どうしたのかしら)
さっきまでは何ともなかったのに、いったい自分はどうしてしまったのだろう。
エリスは、込み上げる吐き気と、段々と遠ざかる意識の中、自身の異常を伝えようと、半歩前に立つシオンの腕に必死に手を伸ばした。
本当は名前を呼びたかったが、声を出せばたちまち、えづいてしまいそうだったからだ。
(……シオ……ン)
エリスの右手が、何とかシオンの腕を捉える。
けれどもう、限界だった。
「……っ」
(ああ……もう、無理……)
どうにかシオンの腕を掴んだまではいいものの、最早立っていることもままならず、エリスはズルズルとその場に崩れ落ちる。
するとシオンは、腕を掴まれたことでようやくエリスの異常に気が付いて、ギリギリのところでエリスの身体を抱き留めた。
――が、そのときにはもう、エリスは意識を手放した後だった。



