【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「……っ」
(何かしら。……何だか、急に胃がムカムカするわ)

 列に並んですぐ、エリスは突如として、言いようのない気持ち悪さに襲われた。

 売店から漂ってくる油の匂いのせいだろうか。

 最初はすぐに収まるだろうと考えていたエリスだが、その気持ち悪さは収まるどころか酷くなり、ものの一分も経たないうちに強烈な吐き気へと変わっていく。

 そこでようやく、エリスは自身の身体の異常に気が付いた。
 明らかに、何かがおかしい、と。

(……吐き、そう)

 気持ちが悪い。頭が痛くて、耳鳴りがする。
 目の前がくらくらして、今にも倒れてしまいそうになる。

 ――とにかく、気分が悪い。


(……急に、どうしたのかしら)


 さっきまでは何ともなかったのに、いったい自分はどうしてしまったのだろう。

 エリスは、込み上げる吐き気と、段々と遠ざかる意識の中、自身の異常を伝えようと、半歩前に立つシオンの腕に必死に手を伸ばした。

 本当は名前を呼びたかったが、声を出せばたちまち、えづいてしまいそうだったからだ。

(……シオ……ン) 

 エリスの右手が、何とかシオンの腕を捉える。
 けれどもう、限界だった。

「……っ」
(ああ……もう、無理……)

 どうにかシオンの腕を掴んだまではいいものの、最早立っていることもままならず、エリスはズルズルとその場に崩れ落ちる。

 するとシオンは、腕を掴まれたことでようやくエリスの異常に気が付いて、ギリギリのところでエリスの身体を抱き留めた。

 ――が、そのときにはもう、エリスは意識を手放した後だった。