エリスがそんな風に考えていると、シオンが突然遊歩道を外れ、芝生の中に入っていく。
そして地面に座り込むと、何やらいそいそを手を動かし始めた。
いったい、どうしたというのだろうか。
「シオン?」
不思議に思ったエリスは、シオンに近づいていく。
するとシオンは、シロツメクサで冠を編み始めていた。
「あなた、それ……」
「うん。姉さんが、母さんと一緒によく編んでた冠だよ。あの頃は僕、上手く作れなくてさ。でも、今は作れるようになったんだよ」
「……そう。懐かしいわね」
シオンの言葉に、幼い頃の記憶が蘇ってくる。
明るく朗らかで、いつも笑顔を絶やさなかった母親の姿が――彼女と過ごした幸福な日々が、次々に蘇る。
その思い出をなぞるように、エリスも芝生にそっと腰を下ろし、シロツメクサに手を伸ばした。
(こうして野草に手を触れるのは、何年振りかしら……)
エリスは、母親が死んで以降、自然と触れ合うことなく生きてきた。
庭園の薔薇を愛でることは許されても、地面に座り込むようなことは許されない。海に潜ることも、駆け回ることも、『淑女らしくない』からという理由で、すべてが禁止されたからだ。
けれど今、ここでは何もかもが自由。
誰一人として、エリスの行動を咎める者はいない。



