(図書館で読もうにも、大衆向けの棚には近づくことすら禁止されていたのよね)
エリスは、かつての息苦しい日々をまるで遠い昔のことのように思い出しながら、シオンに声をかける。
「ねぇシオン。わたしの借りる本は決まったけれど、あなたは何も借りなくていいの? 何か目当ての本があるなら、探すのに付き合うわ」
するとシオンは、手にしていた本を棚に戻しながら、「僕はいいよ。今日は返しにきただけだから」と言って、こう続けた。
「でも、姉さんさえ良ければ、この後少し時間を貰えないかな? 偶然とはいえ、せっかくこうして会えたんだ。もう少し一緒にいたい」
「……!」
「ね、いいでしょう? 姉さん」
「…………」
(まぁ、シオンったら……)
その甘えるような声と仕草に、エリスは途端に姉心を刺激される。
大人になったと思ったら、こうして甘えてくるなんて、我が弟はなんと魔性なのだろう。
エリスは、特に断る理由もなかったこともあり、シオンの誘いを受けることにした。
「ええ、勿論いいわ。あなたの気が済むまで、一緒にいましょう?」
そう言って微笑むと、エリスはシオンと二人、並んで歩き出した。



