マリアンヌの対面に座り、皇女相手に一切臆することなく談笑するシオンは、エリスの記憶の中の甘えん坊の弟とはまるで別人だった。
そんな弟の姿に困惑しながらも、エリスはテーブルに近づいていく。
すると、マリアンヌが真っ先にエリスに気が付き、「ごきげんよう、エリス様」と、いつもと変わらぬ美しい笑みを浮かべた。
エリスがそれに答えると、今度はシオンが穏やかに微笑む。
「姉さん、一月ぶりだね。会えて嬉しいよ」と。
「……っ」
その笑顔は、まるであの日のことなど全て忘れてしまったかのような、吹っ切れた笑みだった。
あの夜以降、エリスから音沙汰がなかったことに拗ねる素振りはなく、また、自分がエリスに連絡をしなかったことに、罪悪感を抱いている様子もない。
そのどこか余裕さえ感じるシオンの態度に、エリスは寂しさを抱かずにはいられなかった。
シオンはもう、自分には甘えてくれないのだと――。
(ああ、殿下の仰っていたとおりだわ。この子はもう、子供ではないのね)
けれど、寂しさを感じる以上に、安堵を覚えるのもまた事実。
アレクシスから話を聞いただけではわからなかった、『シオンは心配ない』という言葉の意味が、ようやく腹の底に落ちた気がした。
エリスはシオンを真っすぐに見据え、微笑み返す。
「そうね、わたしも嬉しいわ。あなたが元気そうで、本当に良かった」



