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(大丈夫とは答えたものの、正直、胃が重いわ)
それから三時間後、エリスは帝国図書館に向かう馬車の中で――対面に座る侍女には気付かれないよう――小さく溜め息をついた。
朝食の後、腹ごなしのために庭園を散歩してたみものの、未だに消化された気がしない。
それもこれも、アレクシスがいない寂しさからくる不調なのだろう。
(まさか、自分がこんなに繊細だったなんて……)
アレクシスがいない今でさえ、祖国にいたときとは比べ物にならないほど恵まれた環境にいるというのに、自分はいつからこんなに強欲になってしまったのだろう。
少しアレクシスと離れただけで体調不良を起こすほど、愛されることが当たり前になってしまったのだろうか。
あるいは、それほどまでにアレクシスに執着してしまったということなのか。
(どちらにせよ、使用人を心配させているようじゃ皇子妃失格よ。しっかりしなさい、エリス)
エリスは心の中で自身に言い聞かせ、背筋を正して外の景色に視線を向ける。
今日も今日とて活気づいた帝都の街並みを眺めながら、エリスは気分を変えようと、これから会うことになっているマリアンヌの顔を思い浮かべる。



