「エリス様、お食事が進んでおりませんが、どこか具合が悪うございますか? ここのところ、夜もよくお眠りになられていない様にお見受けします」
「……!」
アレクシスが帝都を立って五日目の朝、食事が進まないエリスをみかねて、侍女の一人が心配そうに声をかける。
エリスは、食事をし始めて三十分が経ったというのに、半分も食べられていなかった。
声をかけられたエリスはハッとして、サラダにフォークを刺す。
「大丈夫よ、ちょっと考え事をしていただけだから。心配しないで」
「そうですか? よろしければ、今からでもメニューを変えさせますが……」
「いいえ、本当に大丈夫よ。今日もとても美味しいわ」
「…………」
エリスの明らかな作り笑顔に、侍女たちは顔を見合わせる。
侍女たちはエリスの食事が進まない理由が、アレクシス不在による寂しさのせいなのだろうとわかっていた。いずれ、アレクシスがいないことにも慣れるだろうとも。
だが、ここまで落ち込まれてしまうと流石に心配になってくる。
侍女たちは、余計なお世話だと思いつつも「今日のご予定はキャンセルして、一度お医者さまに診ていただくのはどうでしょうか」と提案する。
するとエリスは、今度こそ慌てたように、食事を口に詰め込み始めた。
今日はマリアンヌと帝国図書館に行くことになっている。
アレクシスのいない今、マリアンヌと会うことだけが唯一の楽しみと言っても過言ではない。
その予定をキャンセルするなど、考えられないことだった。
「本当に平気よ。返さなければならない本もあるし、何より、マリアンヌ様とお話するととても気分が良くなるの。――だから、ね?」
エリスが微笑むと、侍女たちは再び顔を見合わせる。
確かに、マリアンヌと話していた方が気分転換にはなると言われれば、そうに違いない。
「そうですね。出過ぎたことを申しました、お許しください」
「いいえ、わたしの方こそ心配をかけてしまってごめんなさい。いつも気遣ってくれて、本当にありがとう」
そう言って、ようやく自然な笑みを浮かべたエリスに、侍女たちはほっと安堵の息をはく。
その後エリスは、少しずつではあったものの、どうにか食事を完食したのだった。



