(何だか、宮がとても広く感じるわ)
事実、この宮はとても広い。
ここに嫁いできて七ヵ月以上が経った今も、知らない場所や、入ったことのない部屋が沢山ある。
だから広く感じるのは何らおかしくないのだが、アレクシスが夜帰ってこないと思うだけで、更に広くなったように感じた。
つまり、エリスは想像していたよりもずっと、アレクシスの不在に大きな喪失感を覚えたのである。
(まるで心にぽっかり穴が開いたみたい。殿下がいらっしゃらないことが、こんなに寂しいだなんて)
エリスはこれまで、大切な人との別れを三度経験してきた。
一度目は母親の死。二度目は弟シオンの単身留学。そして、三度目は王太子ユリウスからの婚約破棄。
そのどれもが、心が抉られるほどの痛みと苦しみを伴う別れだった。
だが今回はそのときとは違う。アレクシスはただの出張、それも、期間はたったの一ヵ月。
十年もシオンと離れ離れで過ごしてきたエリスにとって、一月など取るに足らない期間なはずだった――そのはずなのに。
夜不意に目が覚めたとき、隣にアレクシスがいないことに、とても不安になる。
あれだけ楽しみだった朝夕の食事の時間が、今では、自分は一人なのだと自覚させられる、億劫な時間でしかなくなってしまった。
いっそ、ここに来たばかりのときのように、使用人と一緒に食事を取れないだろうかと考えてしまうくらいには。



