【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



(愛する女性からの贈り物というのは、こうも嬉しいものなのか)

 アレクシスは、少なくとも記憶のある限り初めて、女性からのプレゼントを『嬉しい』と感じていた。
 と同時に、嬉しいと思える自身の心に感動を覚えていた。

 アレクシスはしばらく喜びを噛みしめた後、ようやく顔を上げ、エリスの不安げな瞳を優しく覗き込む。

「ありがとう、エリス。見事な刺繍だ。気に入った」
「本当、ですか?」
「ああ。自分でも引くくらいの喜びで、正直、何と言葉にしたらいいのかわからない」
「……っ」

 するとエリスは緊張が溶けたのか、安堵した様に頬を緩める。

「喜んでいただけたようで、わたくしも嬉しいです。殿下にはいつも贈り物をいただいているので、ずっとお返しをしたいと思っておりましたの」
「そうか。いや、本当に見事な刺繍だ。それに君が俺のことを考えて刺繍してくれたかと思うと……こう、感無量だ。大切に着る」

『大切に着る』――その言葉に、華のような笑みを浮かべるエリス。

 その笑顔に、アレクシスはどうしようもなく胸が熱くなるのを感じた。
 と同時に、理性で押し留めていたはずの衝動が、堰を切ったように溢れ出してくる。