「~~ッ」
刹那、アレクシスは驚きのあまり言葉を失った。
けれど、どうにかエリスの手からシャツを受け取り、銀糸で施された見事な刺繍を、食い入るように見つめる。
「……君が、刺したのか? 俺の……為に?」
「はい。わたくしが刺しました。明日からの演習で、お召しになっていただきたくて」
「…………」
「お気に召しませんでしたか?」
「…………」
「あの……殿下……?」
いったいどうしたというのだろう。
急に黙りこくってしまったアレクシスに、エリスは色々と呼び掛けてみる。
けれどアレクシスは、シャツの襟元をじっと見つめたまま微動だにしない。
エリスが話しかけても、うんともすんとも言わないのだ。
そのためエリスは、贈り物に失敗したのではと強い不安を覚え始めたが、何のことはない。
アレクシスは感動のあまり、軽く意識を飛ばしているだけであった。
(まさか、俺がこの刺繍を手にする日が来ようとは――)
と。



