【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


(まさか、セドリックが俺に隠し事をするとはな)

 アレクシスは馬車の窓から街の賑わいを眺め、静かに目を細める。

 いや、『隠し事』は流石に言いすぎか。
 別にセドリックは、嘘をついたわけではないのだろうから。

(実際、マリアンヌの用事は『ハンカチを返しにきた』、それだけだったのだろう。だがセドリックには、あれほどまでに驚かなければならない理由があった)

 つまりセドリックは、『驚いた本当の理由』を言わなかった。それだけなのだ。

 その理由が気にならないと言えば嘘になる。
 けれど、セドリックが「言わぬ」と決めたなら、それ以上聞く必要はない。

(そうだ。あいつが言わぬということは、俺には関係のないことなのだろうから)

 アレクシスは自身の心を納得させるべく、そう言い聞かせた。