(まさか、セドリックが俺に隠し事をするとはな)
アレクシスは馬車の窓から街の賑わいを眺め、静かに目を細める。
いや、『隠し事』は流石に言いすぎか。
別にセドリックは、嘘をついたわけではないのだろうから。
(実際、マリアンヌの用事は『ハンカチを返しにきた』、それだけだったのだろう。だがセドリックには、あれほどまでに驚かなければならない理由があった)
つまりセドリックは、『驚いた本当の理由』を言わなかった。それだけなのだ。
その理由が気にならないと言えば嘘になる。
けれど、セドリックが「言わぬ」と決めたなら、それ以上聞く必要はない。
(そうだ。あいつが言わぬということは、俺には関係のないことなのだろうから)
アレクシスは自身の心を納得させるべく、そう言い聞かせた。



