そのせいで、アレクシスはシオンに強く出られずにいた。
(確かにシオンは、俺と二人きりであろうと敵意を向けてくることはない。むしろ不気味なまでに好意的だ。――だが、時折背後から感じる視線は……)
アレクシスは、シオンの自分に対する態度は演技であると考えていた。
なぜ――と聞かれると上手く答えられないが、不意にただならぬ気配を感じて振り向くと、そこには必ずシオンの姿があるからだ。
(あの男は心を入れ替えてなどいない。表面上そう見えるように取り繕っているだけで、今も俺のことを疎ましく思っているはずだ)
そうでなければ、エリスと二人きりになろうとするアレクシスの邪魔をするわけがない。
何かともっともらしい用事をつけてシオンが割り込んでくるのは、アレクシスをエリスから遠ざけるためだろう。
「俺は決めたぞ。今夜こそシオンと話をつける。セドリック、お前も協力しろ。作戦会議だ」
「作戦会議……って。もしかしてそれ、今からやるって言ってます? 仕事が溜まりに溜まっているこの状況で?」
「当然だろう。お前はさっきの俺の言葉を聞いていなかったのか? このままでは仕事どころではない、溜まる一方だぞ……!」
アレクシスは真顔で言い切って、眉間に深く皺を刻む。
するとセドリックは少しばかり思案して、諦めた様に瞼を伏せた。
アレクシスの言うとおり、このままでは仕事は遅れるばかり――そう判断したのだろう。
「仕方ありませんね。でしたら一先ず、私がシオン殿と話してみましょう。殿下が話すと、こじれる未来しか見えませんので」
「――! そうか! 引き受けてくれるか!」
「まぁ、上手くいくかはわかりませんが。とりあえず、話すだけ話してみますよ」
(正直気は進まない。が、これも殿下の幸せのため……)
セドリックは、かつて自分自身に立てた誓いの内容を思い出し、窓の外の高い空を見上げるのだった。



