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その日の午後、エリスはマリアンヌに会うために皇女宮を訪れた。
今はシーズンオフで公務が少ないということもあり、ここ最近は週に二度ほどお茶をしている二人である。
庭園の東屋にてお茶会を開始して早々、エリスがアレクシスへの贈り物について相談すると、マリアンヌは途端に目を輝かせた。
「まあ! アレクお兄さまへ贈り物ですって!? 前に見せていただいたエリス様の刺繍、本当に素敵だったもの! 絶対に喜ばれるわ!」
「ありがとうございます。マリアンヌ様にそう仰っていただけて安心しました。ただ、何に刺繍を入れるか悩んでおりますの。定番はハンカチなのでしょうけど、お贈りしても演習には持参していただけないような気がして」
エリスが懸念を述べると、マリアンヌは一瞬で真顔に戻り、「確かに、そうね」と呟く。
「エリス様の言うとおりだわ。演習になんて持っていったらすぐに汚れてしまうし、アレクお兄様なら、間違いなく置いていくわね」
「やはり、そうですわよね。でもわたくし、できることなら殿下にご持参いただきたいのです。マリアンヌ様、何かいい案をいただけないでしょうか?」
「……そうねぇ、何がいいかしら」
マリアンヌは思案顔で庭園の向こうを見つめ――数秒後、思い出したように声を上げた。
「そうだわ、軍服よ!」と。



