【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 エリスは、いつの間にやら戻っていた自分の部屋の中を、ぐるぐると歩き回りながら思案する。
 侍女たちが不思議そうな目で見てくるが、今のエリスに、それを気にしている余裕はなかった。

(ここはやっぱり刺繍にしようかしら。出立まであと十日しかないし、品を注文するというのは現実的じゃないもの。でも、ハンカチとポケットチーフはユリウス殿下にお渡ししてしまっているのよね。……それに)

 エリスは、一度も見たことがないながら、訓練中のアレクシスの姿を思い浮かべる。

(そもそも、ハンカチやポケットチーフって、演習に持っていかれるのかしら?)

 ポケットチーフは論外として、アレクシスの軍服のポケットに、ハンカチが収まっているとは想像しづらい。
 贈れば絶対に喜んでくれるだろうが、ここ最近のアレクシスの態度からすると、『君からの刺繍の入ったハンカチを汚すわけにはいかない。額縁に入れて飾ろう』くらい言いそうな気がする。

(いえ、流石に額縁は言いすぎね。でも、鍵のかかった引き出しに仕舞うくらいはしそうだわ)

 それはそれで嬉しいのだが、本音を言えば、やはり、演習に持っていってもらいたい。
 
「悩むわね。どうしましょう……」

 そこまで考えて、ふと思い至る。
 今日は午後から皇女宮にてマリアンヌとお茶をすることになっている。彼女なら、いい助言をくれるかもしれない。

(そうね、それがいいわ。マリアンヌ様にお伺いしてみましょう)