「出立までに、わたくしにできることはありますか?」
最後に――と言った風に尋ねると、アレクシスは驚いたように目を見開いた。
まさかそんなことを聞かれるとは……という顔で息を呑み、一拍置いて、口を開く。
「そう、だな……。俺は君が健やかに過ごしてくれさえすればそれでいいんだが……強いて言うなら、夜、起きていてくれると嬉しい」
「夜、ですか? でも、それっていつもと変わらないのでは……」
そもそも、エリスはここ一月ほど、毎日アレクシスと寝台を共にしているのだ。
それを考えると、今アレクシスが言った願いは、何一つ特別ではないことのように思えた。
アレクシスもそれは理解していたのか、「それはそうなんだが」と言葉を続ける。
「演習までは色々とやることが多くてな、帰りが遅くなりそうなんだ。夕食は宮廷で取ることが多くなるだろう。だが、必ず日付が変わるまでに戻るようにする。だから、待っていてくれるか?」
「……っ」
その乞う様な眼差しに、エリスは顔を赤らめた。
言われなくても待っているつもりだったが、こんな風に言われると、恥ずかしくて返って返事がしずらくなってしまうではないか。
そんなことを思いながら、エリスはこくりと頷く。
「はい。わたくし、起きて殿下をお待ちしております。ですから、必ず毎日帰ってきてくださいね」
「――! ああ、勿論だ」
するとアレクシスは満足したのか、フッと頬を緩める。
その後急いで食事をかき込むと、「では行ってくる。できるだけ早く帰れるようにする」と言い残し、セドリックと共に宮廷へと出掛けていった。



