「殿下、どうかそのようなお顔をなさらないでください。確かに残念ではありますが、約束自体が無くなるわけではないのですから。殿下と出掛ける日を楽しみに待つ時間も、わたくしにとっては、とても尊いものですもの」
「そうか……そう言ってもらえると……。演習後は、必ず休みを取ると約束する」
「はい、そのときを楽しみにしております。ところで、出立の日は決まっているのでしょうか? お戻りは、いつごろに?」
アレクシスは普段、エリスに仕事の話はしない。
軍の扱う情報は、そのほとんどが機密事項であるからだ。
エリスはそのことをよく理解していたため、自分からアレクシスの仕事について尋ねることはなかった。
けれど、演習で宮を空けるというのなら、その日程くらい聞いても罰は当たるまい。
アレクシスはエリスの問いに一瞬考える素振りを見せたものの、話しても問題ないと判断したのか、このように説明してくれた。
「出立は十日後。戻るのはその一月後の予定だ。今年の演習実施地は帝国最南西の駐屯地だからな。演習自体は七日間の予定だが、道のりはそれ以上……馬で片道十日以上の距離がある。天候状況によっては二週間ほど延びるだろう」
「最南西、ですか。それは……とても遠いですわね」
「共和国との国境付近だからな。まあ、それなりの距離にはなる」
「……危険はないのですよね?」
「あくまで演習だからな、その心配はない。毎年、酒に酔って夜の海に飛び込む奴は出るが……まあ、それぐらいだな」
「…………」
酔った状態で夜の海に飛び込む? 果たしてそれは大丈夫と言えるのだろうか?
エリスは不安を覚えたが、演習自体に危険はないのだと一応は理解する。



