【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

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「あの男、いったいいつまで居座るつもりなんだ……!」

 当初は数日の予定だったはずなのに、結局シオンは二週間が経った今もエメラルド宮に泊まり続けているのだ。
 それも、エリスの隣の部屋に。

 おかげでアレクシスはこの二週間、一度もエリスの部屋を訪れることができないでいた。


 アレクシスは、苛立ちのあまり書類をぐしゃりと握りつぶす。
 するとセドリックは作業を止め、主人に憐憫(れんびん)の眼差しを向けた。

「お気持ちはわかりますが、だからといって今さら追い出すのは難しいでしょう。あと一週間耐えれば寮の準備も整うのですから、いっそ諦めてはいかがです?」
「何だと!? お前はいったい誰の味方なんだ! お前は俺に、この苦行をあと一週間も味わえというのか!?」
「そうは言っていませんが、この二週間のシオン殿はまるで心を入れ替えたように、殿下を慕ってくださるではないですか。使用人からの評判もいいですし」
「――っ! それが演技だとしてもか……!?」
「まぁ、そうですね。それに、他でもない殿下ご自身が仰ったのですよ。たった二日で百名以上いる使用人全員の顔と名前を覚えるなど、なかなかできることではない、と」
「……ッ、それは……確かに、そう言ったが」

 実際シオンはこの二週間、エリスにもアレクシスにも、何一つ害を与えるようなことはしていない。

 それどころか、どこまでも礼儀正しく接してくる。
 アレクシスにも、使用人にも。

 宮にやってきた翌日には使用人全員の顔と名前を暗記し、朝から庭師の水やりを手伝い、メイドが重い荷物を持っていたら率先して運び、侍従にもコックにも礼を欠かさない。

 それは一見すると貴族の誇りを捨てた行動にも思えるのだが、けれど媚びへつらう様子はまったくないものだから、使用人たちからは少しも侮られることはなく、むしろ慕われているのである。

「流石はエリス様の弟君ね」
「姉と同じく心優しいお方なのだろう」
「シオン様がいらっしゃるからか、最近はエリス様がよくお笑いになるの」
「殿下のことも、とても慕ってくださっているそうだ。昨日なんてエリス様と二人、『殿下がいかに素晴らしいか』を、真剣に語り合っていたと聞いたぞ」

 ――といった具合に。