実は三日前、エリスはアレクシスと街歩きデートの約束をしたばかりだった。
どうやらアレクシスは、建国祭のときエリスに街を案内できなかったことをずっと気に病んでいたらしく、『貴族たちが領地に戻るこの時期ならば、知り合いに声をかけられることもないだろう。今なら気兼ねなく街を歩ける。君に帝都を案内したい』と、エリスを誘ってくれたのだ。
当然、エリスは喜んで頷いた。
三月に帝国に嫁いできてから七ヵ月が過ぎたというのに、未だ二人きりでは出掛けたことがなかったからだ。
(街歩きって、いったい何を着ていったらいいのかしら。マリアンヌ様とお茶をするときの様なドレス……は駄目ね。目立ちすぎるわ。殿下はいったいどんな格好を……って、そう言えばわたし、軍服か部屋着姿の殿下しか見たことないわ。それって、妻としてどうなのかしら……)
エリスは、そんな風に考えてしまうくらいにはデートを楽しみにしていた。
それが、まさか約束してたった三日で反故にされるとは……。
エリスは内心ショックを受けた。けれど、すぐに思い直す。
別にアレクシスは、デートをしないと言っているわけではないし、仕事なのだから仕方ない。
それに今一番気に病んでいるのは、自分ではなくアレクシスの方なはず。
その証拠に、アレクシスはまるでこの世の終わりとでもいうかの表情で、こちらの顔色を伺っているのだから。



