【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 瞬間、エリスはハッと息を呑んだ。

『俺だけを見ていればいい』

 と言ったその声が、あまりにも甘く、心地よく響いたからだ。


「……で……んか……?」


 薄暗い部屋のベッドの上で、アレクシスの角ばった手のひらが、エリスの頬を優しく撫でる。
 
 どこか乞う様な、熱情を含んだ眼差しで。
 甘く絡みつくような声で、「エリス」――と、そう囁く。


「もう一度言う。君は、俺だけを見ていろ」

「……っ」

 刹那、エリスは突如として、腹の奥が何かに突き上げられる様な、奇妙な感覚に襲われた。
 それが、アレクシスに刻みつけられた身体の記憶だと気付くのに、さして時間はかからなかった。 

 途端、エリスはかあっと顔を赤らめて――といっても、暗い中では顔色を悟られることはないが――コクリと首を縦に振る。

 するとアレクシスは唇にゆるりと弧を描き、満足げに呟いた。

「そうだ。それでいい」――と。


 アレクシスは最早何も躊躇うことなく、溢れ出す熱情にまかせ、エリスの唇に深く口づけるのだった。