(……だが、そこもいい)
そう思ってしまうのは、惚れた弱みであろうか。
――が、このままではまた、エリスの心はシオンでいっぱいになってしまう。
それを危惧したアレクシスは、悩みに悩んだ末、最後の一手を打つことにした。
アレクシスはグラスに残った酒を一気に飲み干しテーブルに置くと、エリスの身体をさっと腕に抱き抱え、ソファから立ち上がる。
「きゃっ」と小さく悲鳴を上げたエリスの顔を至近距離で覗き込み、悪巧みをする子供の様に微笑んだ。
「君に一つ、いいことを教えてやろう」
「いいこと、ですか?」
「ああ。これを聞いたら、きっと君もシオンの見る目が変わる」
「……?」
アレクシスは、不思議そうに自分を見上げるエリスをベッドまで運ぶと、部屋の灯りを一つだけ残し、他を手早く落として回る。
そうして自分もベッドに横になると、エリスの身体を腕に抱き寄せ、こう尋ねた。
「君は、シオンの成績表を見たことがあるか?」
「成績表、ですか?」
予期せぬ質問に、エリスは眉を寄せた。
が、やや逡巡した末、慎重に答える。
「直接見たことはありませんわ。ですが父からは、『中の下』だと聞いております。最も、父は決してシオンを褒めませんでしたから、実際は『中の上』くらいだと思うのですが。……でも、どうしてそのようなことを?」



