エリスがその夜のことを思い出していると、不意に、アレクシスがシオンの名を口にする。
「そうだ、エリス。シオンが昨夜、学院の寮に移ったそうだ。今日セドリックから報告があった」
「――!」
その内容にエリスは一瞬瞳を見開くと、そっと身体を起こし、感情を押し殺す様に微笑んだ。
「そうですか。一週間もセドリック様にお世話になって……次お会いしたら、直接お礼を申し上げなければなりませんわね」
「礼? ……礼か。あいつが好きでしたことだから、必要ないと思うがな」
「そういうわけには参りませんわ。わたくしは、あの子の姉ですもの」
そう。シオンは宮を去ってからの一週間、セドリックに世話になっていた。
セドリックが、「シオンのことを気に入った」という理由で。
だが、それが単なる気遣いに過ぎないということを、エリスは理解していた。――というより、そうとしか考えられなかった。
とは言え、せっかくの好意を無下にするのも悪いし、シオンを一人にしておくことに心配が拭えなかったエリスは、セドリックの申し出を有難く受け取ったのだ。
「そんなに心配なら、手紙を書いたらどうだ?」
アレクシスは、膝枕をやめてしまったエリスの腰を引き寄せると、今度は膝の上に座らせる。
するとエリスは頬を染め、けれど、拒絶する様に瞼を伏せた。
「手紙は書きません。わたくし、決めましたの。あの子の方から連絡してくるのを、いつまでも待つと」
「…………」
その頑なな眼差しに、アレクシスは困ったように眉を下げる。
我が妻はなかなかに強情だ、と。
「そうだ、エリス。シオンが昨夜、学院の寮に移ったそうだ。今日セドリックから報告があった」
「――!」
その内容にエリスは一瞬瞳を見開くと、そっと身体を起こし、感情を押し殺す様に微笑んだ。
「そうですか。一週間もセドリック様にお世話になって……次お会いしたら、直接お礼を申し上げなければなりませんわね」
「礼? ……礼か。あいつが好きでしたことだから、必要ないと思うがな」
「そういうわけには参りませんわ。わたくしは、あの子の姉ですもの」
そう。シオンは宮を去ってからの一週間、セドリックに世話になっていた。
セドリックが、「シオンのことを気に入った」という理由で。
だが、それが単なる気遣いに過ぎないということを、エリスは理解していた。――というより、そうとしか考えられなかった。
とは言え、せっかくの好意を無下にするのも悪いし、シオンを一人にしておくことに心配が拭えなかったエリスは、セドリックの申し出を有難く受け取ったのだ。
「そんなに心配なら、手紙を書いたらどうだ?」
アレクシスは、膝枕をやめてしまったエリスの腰を引き寄せると、今度は膝の上に座らせる。
するとエリスは頬を染め、けれど、拒絶する様に瞼を伏せた。
「手紙は書きません。わたくし、決めましたの。あの子の方から連絡してくるのを、いつまでも待つと」
「…………」
その頑なな眼差しに、アレクシスは困ったように眉を下げる。
我が妻はなかなかに強情だ、と。



