(シオンはわかっていたのだろう。自分が宿に泊まると言えば、エリスが引き留めるであろうことを。つまり、あの男の俺への好意的な態度は、俺に断らせないようにするためだったというわけか)
となると、もしここで自分がエリスの願いを聞き入れなければ、エリスからも使用人からも、『狭量な男』というレッテルを張られてしまうことだろう。
妃の弟一人泊めてやれない、心の狭い男だと。
(それだけは、何としても避けなければ……)
エリスに悪い印象を持たれたくなかったアレクシスは、結局、承諾せざるを得なかった。
「仕方ない。数日だけだぞ。だが、実弟とはいえ彼は男。部屋に入れるときは必ず侍女を同席させるように。いいな?」
大人げなく念押しすると、エリスは一瞬腑に落ちないような顔をしたが、すぐに顔を綻ばせる。
「はい、ありがとうございます、殿下……!」と、いつになく声を弾ませて。
アレクシスはそんなエリスを見て、シオンといられるのがそれほどまでに嬉しいのかと複雑な気持ちになったが、それと同時に、エリスの笑顔が見られたことに心から安堵した。
こんなに喜んでくれるのならば、数日くらい泊めてやろう。流石のシオンも、侍女の前で滅多なことはしないだろうし、と。
こうしてアレクシスは、しばらくシオンを泊めることを受け入れたのだが――。



